研究課題/領域番号 |
17K16315
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研究機関 | 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 |
研究代表者 |
野田 万理子 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 分子病態研究部門, 研究員 (50571311)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | COPS7A / Per3 / Autism / 神経細胞移動 / 大脳皮質形成 / 発達障害 |
研究実績の概要 |
核内タンパク質の一つであるCOPS7Aは、COP9シグナロソーム(CSN)と呼ばれる大型の複合体を形成する。CSNは、ユビキチン様蛋白質Nedd8をcullinから外す(脱Nedd8化)することにより、複合体型ユビキチンリガーゼであるcullin-RING型ユビキチンリガーゼ(CRL)活性を制御する。真核生物の細胞内蛋白質の分解の多くはCRLによって制御されている。CRLはスーパーファミリーであり、それぞれ構造や基質が大きく異なるが、全て単一のCSNによって活性が制御されている。CRLの異常によってアルツハイマー病、関節リウマチ、白血病や発癌が引き起こされることが知られている。CSNは多くの細胞周期制御因子と相互作用し、細胞増殖・老化過程を制御することが明らかとなっており、これも発癌に関与することが知られている。最近の自閉性障害(ASD)患者の網羅的解析から、健常群と比較して顕著なCOPS7A発現減少が報告されている。 しかし、大脳皮質発達におけるCOPS7Aの生理機能・発現状態は全く不明であり、病態形成に至るメカニズムに関しても解析がなされていないため、本研究ではCOPS7Aが大脳皮質発達に及ぼす役割の解明を目指し、解析を行った。まず、COPS7AのRNAiベクターを子宮内マウス胎仔脳遺伝子導入法により神経幹細胞へと導入しCOPS7Aの発現抑制を行った。その結果、神経細胞移動が障害され、神経細胞軸索の進展も抑制された。同様にしてCOPS7A発現抑制した神経幹細胞は細胞周期の異常(細胞周期再侵入の亢進)が見られた。細胞周期の脱出に必須の因子群とCOPS7Aとの相互作用が報告されていることから、今後これらをターゲットとしたシグナル伝達機構の解析を行う。 昨年度までに、時計遺伝子の一つであるPer3の異常による発達障害病態形成メカニズムの解析を完了し原著論文として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COPS7Aに関しては神経細胞発達における基礎的な解析(神経細胞移動や神経突起伸長に及ぼす影響、細胞形態解析)はすでに終了しており、市販抗体を用いた発現解析(western blotting)により発生段階の比較的早い時期からマウス脳に発現していることが明らかとなった。COPS7Aの発現抑制によって細胞周期の異常(細胞周期再侵入亢進)が引き起こされることが明らかとなったが、これは“細胞周期の遅延が神経細胞移動の遅延を引き起こす”という従来の基本的な考え方の範疇外の事象となる。細胞周期再侵入に必須の分子であるしかし、COPS7Aの作用機構の詳細は現時点で明らかになっておらず、病態形成機構の解明の端緒がなかなか掴めなかった。今後は、細胞周期の脱出に必須の因子群との相互作用によるCOPS7Aの細胞周期調節の可能性の検証を端緒とし、病態形成機構解明に挑みたい。 時計遺伝子の一つであるPer3に関する解析は予定通り完了した。以下に詳細を述べる。ASDを始めとした発達障害患者は高い割合で睡眠障害を併発することも知られている。しかし睡眠障害と発達障害発症の連関を証明する分子メカニズムに関しては殆ど明らかにされておらず、また胎生期のPer3の役割に関しても未解明のままである。そこで本研究では発達障害の病態形成におけるPer3の機能解明を目的として解析を行った。In situ hybridizationにより胎生期マウス大脳皮質におけるPer3のmRNA発現状態を明らかにした。これ以外に共焦点レーザー顕微鏡を用いた脳スライスライブイメージングと分子生物学的・生化学的解析による包括的な解析によりPer3の皮質神経細胞の移動や成熟に及ぼす機能を明らかにし、原著論文として報告した。
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今後の研究の推進方策 |
COPS7Aに関しては細胞周期脱出の調節因子に焦点を絞ったシグナル伝達機構の解明を進める。分子機構の探索に準備期間と資金を必要とする。これにより発達障害の病態形成機構の解明につながるものと思われる。これまでの結果と統合して原著論文としてまとめる。 Per3に関しては、これまでに得られた結果をまとめて原著論文として報告した。
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次年度使用額が生じた理由 |
Per3の研究計画が予想以上に早く進展し、原著論文として報告できた一方で、発達障害の病態と関連するCOPS7Aの相互作用因子の解明に時間がかかりシグナル伝達経路の解析が思うように進まなかったため。また前年度より新たにSPF環境下でのマウスの繁殖・維持を行うこととなったが、新施設の燻蒸処理や準備に時間がかかり、実際の実験開始に至るまで2ヶ月程度の空白期間があり、遅滞を生じた。 今年度はCOPS7Aのシグナル伝達解析に集中し、原著論文作成に必要な実験を早急に行う。それに必要な試薬の購入や妊娠マウスの購入に予算を計上する。候補となる上流・下流分子の分子生物学的な解析を行い、このためのキット類や特異抗体の購入にも予算を計上する。
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