近年の臨床遺伝学的な解析の結果、多くの発達障害原因遺伝子(候補)が報告されてきたが、ハイスループットな解析手法が無いこともあり、細胞生物学的な病態機能解析は非常に遅れている。本研究では、臨床グループとの連携で見出されたASDの新規病態関連遺伝子候補であるCOPS7A、およびPER3が、病態形成に果たす役割を“発達障害病態関連遺伝子解析バッテリー”を用いて包括的に解析し、未知のASD分子病態メカニズムの一端を解明することを目的とした。 核内タンパク質の一つであるCOPS7Aは、進化の過程で高度に保存され、COP9シグナロソーム(CSN)と呼ばれる大型の複合体を形成する。CSNは、真核生物の細胞内タンパク質分解の大半を司る。またPER3は、時計遺伝子の一つであり、体内時計の調節に関与することが知られている。 本研究ではまずCops7aが大脳皮質発達に及ぼす役割の解明を目指し、解析を行った。まず、Cops7aのRNAiベクターを子宮内マウス胎仔脳遺伝子導入法により神経幹細胞へと導入しCops7aの発現抑制を行った。その結果、神経細胞移動が障害され、神経細胞軸索の進展も抑制された。同様にしてCops7a発現抑制した神経幹細胞は細胞周期の異常(細胞周期再侵入の亢進)が見られた。しかし、ASDの病態に関連するシグナル伝達経路との連関を見いだすことができず、病態形成機序の解明に至らなかった。 次にPer3の異常による発達障害病態形成メカニズムの解析を行い、原著論文として報告した。具体的には、胎生期マウス大脳皮質におけるPer3のmRNA発現分布パターン解析、RNAiを用いたin vivoでのPer3発現抑制、共焦点レーザー顕微鏡を用いた脳スライスライブイメージングと分子生物学的・生化学的解析による包括的な解析などによりPer3の皮質神経細胞の移動や成熟に及ぼす機能を明らかにした。
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