研究課題
本研究では、小動物用超音波高解像度イメージングシステムを用いて、胎児心疾患モデルマウスを胎生期から評価することによって、胎内での循環動態の解明及び胎仔心不全への治療法の開発を目的とした。小動物用超音波イメージングシステム(Vevo2100®, VisualSonics)を用いてHey2/Hrt2欠損マウスの胎生期の心形態及び循環動態を検討したところ、ホモ接合型欠損マウスにおいて心室中隔欠損症及び右室低形成を呈し、胎齢と共に左室拡大の進行、両心室の収縮能の低下を認め、一部で胸水貯留が確認された。以上より、胎児心不全モデルマウスとして応用が可能と考えられた。さらに同マウスを用いて、PDE5阻害剤の経胎盤的投与による胎仔胎盤循環への効果を検討した。PDE5阻害剤投与によって、胎仔の左室拡張末期面積及び拡張能に変化はなかったが、左室収縮能の有意な改善を認めた。左室心筋緻密化層は野生型マウスの約2/3に菲薄化していたが、PDE5阻害剤投与による改善効果は認めなかった。また、胎児胎盤重量及び胎盤循環に変化は認めなかった。小動物用超音波イメージングシステムにより、従来困難であったマウス胎仔心臓の機能的評価がリアルタイムに可能であった。さらに胎児心疾患モデルマウスにおいて、PDE5阻害剤の経胎盤的投与により、胎仔の左室収縮能改善効果が示された。胎盤循環や胎仔の左室形態及び容量の変化を介していないことから、PDE5阻害剤の胎仔心筋への直接作用が強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度1月に三重大学への異動があったが、それまでにほぼ計画通りに進展している。次年度も、国立循環器病研究センター研究所に通いながら、実験を継続する予定である。
本年度の研究結果より、PDE5阻害剤の胎仔心筋への直接作用が強く示唆されたため、次年度は、まず、胎仔心筋における遺伝子発現プロファイル変化やPDE5阻害剤に対する反応性等の生化学的な検討を行う。また、経胎盤的PDE5阻害剤の投与量による治療効果についても検討する。Hey2/Hrt2ファミリーは、心筋細胞・血管内皮細胞・血管平滑筋細胞において重複しながらも一部相補的・特異的な発現を示し、その発現パターンが欠損マウスの表現型の特徴となっている。発生期のマウス心臓において領域特異的に発現しており、胎生9.5~10.5日目にかけてHey2/Hrt2は心室筋、流出路筋に発現する。一方で、血管内皮細胞・血管平滑筋細胞は胎盤絨毛血管及び臍帯にも存在するため、Hey2/Hrt2欠損による胎盤臍帯の血管発生異常の影響を完全には除外できない。そこで心筋細胞特異的Hey2/Hrt2 コンディショナル欠損マウスを作製し、胎仔期の心形態及び心機能異常と胎盤血流異常が出現するかどうか検証することを当初計画していた。しかし、本年度のHey2/Hrt2ホモ欠損マウスを用いた実験で、同マウスにおいて胎盤循環に有意な変化を認めず、胎仔心形態異常および心不全の進行における胎盤循環の影響は少ないと推察された。そのため、次年度は、本年度確立した小動物用超音波イメージングシステムによる実験系を、Hey2/Hrt2欠損マウス以外の胎児心疾患モデルマウスに応用したいと考えている。具体的には、拡張型心筋症を呈する遺伝子改変マウス(Life Sci. 2014)に対して、経胎盤的PDE5阻害剤投与を行い、胎仔心機能への影響および胎仔心筋の遺伝子発現変化を検討し、再現性が得られるか検証していく予定である。
平成30年1月に三重大学に異動となり、その前後のマウスや試薬の購入を制限したため、次年度使用額が生じた。本年度も、国立循環器病研究センターに通いながら研究を継続する予定である。具体的には、胎仔心筋の遺伝子発現変化を検討するためのPCR試薬類およびマウスの購入費・飼育費に使用する予定である。さらに、本年度は研究成果を発表するため、論文投稿費および学会参加費にも使用する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
J Matern Fetal Neonatal Med.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1080/14767058.
Ultrasound Obstet Gynecol.
10.1002/uog.18925.
Am J Hypertens.
巻: 31 ページ: 89-96
10.1093/ajh/hpx130.
巻: 30 ページ: 2831-2837
10.1002/uog.18819.