オートファジー、エンドサイトーシスといったメンブレントラフィック経路の異常が、様々な疾患の発症に関与していることが明らかにされつつある。私たちは、クラスIIIのPI3-キナーゼ(PI3K)の一つで、エンドソーム、オートファゴソームの形成において中心的な役割を果たすVps34に注目し、Vps34を表皮特異的に欠損させたマウスを作製した。Vps34を胎生期から欠失させると表皮に著しい空胞形成をきたして生後間もなく死亡するのに対し、タモキシフェン (TAM) 誘導性の遺伝子改変マウス(CreERT2; Vps34flox/flox)を作製して、TAMを塗布したところでのみVps34を欠損させることができるようにすると、尋常性乾癬に類似した病変が形成された。このマウスでみられる病変を、乾癬のモデルマウスとして頻用される、イミキモド誘導性乾癬モデルマウスでみられる病変と比較した。その結果、TAM誘導性Vps34欠損マウスでみられる尋常性乾癬様病変は、病理組織学的にも、分子生物学的にもイミキモド誘導性乾癬モデルマウスでみられる病変と類似しており、尋常性乾癬の新しいモデルとなりうることを明らかにした。 乾癬では表皮が異常に肥厚することから幹細胞との関係が示唆される。研究最終年となる令和1年度は、私たちが樹立した乾癬モデルマウスを用いて、幹細胞との関係について研究した。その過程で、様々な細胞の運命決定・分化に関わる、Sox転写因子ファミリーに属するSox13が、毛包発生の最も早期に発現するマーカーの一つであること、新たな毛包幹細胞のマーカーになりうることを見出した。今後は、毛包幹細胞、イノシトールリン脂質代謝、オートファジーと乾癬の関係について研究を進めていく予定である。
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