研究課題
近年の免疫学の進歩により、B細胞は多彩な機能を持つことが明らかとなってきた。もともとB細胞は抗体を産生する役割のみを持つとされてきたが、現在では抗原提示やサイトカイン産生を介して、免疫系において中心的な役割を果たすことが示唆されている。B細胞は自己免疫疾患においても重要であり、特にB細胞受容体を介した自己抗原刺激は、自己反応性B細胞の活性化とサイトカイン産生を誘導し、その結果病態の形成と進展に大きく関与する。ところが、自己反応性B細胞の機能(自己抗原に対する反応性やサイトカイン産生、他細胞との相互作用)に関しての直接的な検討は技術的な難しさから全く行われていない。本研究では、マイクロ空間を用いた独自の技術と方法論を用い、SScにおける自己反応性B細胞の機能を明らかとする。これにより、広く自己反応性B細胞の自己免疫疾患に対する役割の理解を深め、新たな治療ターゲットの同定と治療法開発へとつなげることを目指す。本研究では新しい測定法を用い、SSc患者より得られた自己反応性B細胞の機能解析を行っている。具体的にはマイクロチップ上に作成されたマイクロ空間を用い、topo I抗原特異的B細胞と血管内皮細胞、線維芽細胞、T細胞をはじめとする免疫細胞の互いに及ぼす影響を検討し、自己反応性B細胞の機能解析を施行中である。これにより、自己反応性B細胞が血管内皮細胞や線維芽細胞およびT細胞などの免疫担当細胞と相互作用した際のサイトカイン産生能を検討している。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、SSc患者から得られたtopo I抗原特異的B細胞を中心とした細胞間相互作用を解析することで、自己反応性B細胞の機能を明らかにすることを目的とする。従来法では患者から得られた少数の自己反応性B細胞を検討することはできない。このため、本研究ではマイクロチップ上に作成されたマイクロ空間を用い、topo I抗原特異的B細胞と血管内皮細胞、線維芽細胞、T細胞をはじめとする免疫細胞の互いに及ぼす影響を検討し、自己反応性B細胞の機能解析を実現することを目的とする。今年度の進捗を以下に記載した。1) SSc患者末梢血からの細胞分離抗topo I抗体陽性のSSc患者から、通常の診療で得られた採血検体を用い、血球分離剤によりリンパ球を分離した。引き続きCD20抗体を用い、B細胞の分離をMACSシステムで行った。蛍光標識されたtopo I抗原に結合するB細胞をセルソーターで抽出することによりtopo I特異的B細胞を得た。2) マイクロ空間を用いたB細胞機能解析マイクロチップに形成された直径100 μmの流路で血管内皮細胞を培養した。次にtopo I特異的B細胞を導入し、topo I特異的B細胞と血管内皮細胞の細胞間相互作用を検討中である。対応抗原は不明ながらも、抗topo I抗体は血管内皮細胞の表面分子に結合することが知られており、topo I特異的B細胞はBCRを介して血管内皮細胞から刺激を受けると考えられ、これによる影響を検討した。血管内皮細胞のみならず、T細胞や線維芽細胞、マクロファージも共培養の対象として用いており、皮膚や肺、あるいはリンパ臓器におけるマイクロ空間を模倣した検討を施行中である。B細胞のみをマイクロ空間に導入し、抗原やサイトカインで刺激し、産生されるサイトカインに関しても解析中である。
引き続き、B細胞から培養液中に放出された微量のサイトカインを、マイクロ空間に展開した捕捉抗体結合ビーズを用いて解析する予定である。さらに検出には高感度な熱レンズ顕微鏡検出系を用いているため、従来の手法よりも100-1000倍の感度で解析が可能である。 さらにTopo I特異的B細胞が産生する抗topo I抗体や、その他の自己抗体の血管内皮細胞に対する結合能をマイクロチップ上で細胞ELISAを行うことで検討する予定である。B細胞のみならず、血管内皮細胞から産生されるサイトカインを解析することで、自己抗体が血管内皮細胞に及ぼす影響を検討する。あわせてSScのモデルマウスであるBLM誘発SScモデルマウスを作成し、解析を行う予定である。具体的にはモデルマウスの皮膚および肺から病理組織切片を作成し、線維化などを解析する。 さらに血清を用い、サイトカイン濃度に関する解析を行う。 併せて血清に含まれる自己抗体を解析する。ヒトの場合と同様に、topo I特異的B細胞の解析も行う予定である。これらの研究は、現在までに解析が全く不可能であった自己反応性B細胞と、T細胞をはじめとする他の細胞との細胞間相互作用を検討することにつながる。自己反応性B細胞のサイトカイン産生能に関しては、特殊なトランスジェニックマウスを用いた検討があるのみで、ヒトに関しては全くなされておらず、これまでに報告のない新規性の高い結果を得られることが期待される。本研究の成果は他の自己免疫疾患に関しても応用されることが想像され、自己免疫疾患全般に対する病態解明と新規治療法の開発に寄与すると考えられる。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
Archives of Dermatological Research
巻: 309 ページ: 833~842
10.1007/s00403-017-1786-4
Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology
巻: 32 ページ: 291~297
10.1111/jdv.14459
Arthritis & Rheumatology
巻: 69 ページ: 1879~1890
10.1002/art.40164
The Journal of Rheumatology
巻: 44 ページ: 1198~1205
10.3899/jrheum.161092
The Journal of Experimental Medicine
巻: 214 ページ: 1129~1151
10.1084/jem.20160247