研究実績の概要 |
昨年度は、抗PD-1抗体に対する治療抵抗性のメカニズムを解明するために、抗PD-1抗体治療にて病巣がすべて一旦縮小した進行期メラノーマ1例において、(1)縮小を保っている病巣、(2)数年後に急激に増大した病巣、それぞれを切除、解析した。縮小維持していた病巣は壊死組織とマクロファージで構成されており、増大、悪化した病巣は壊死組織、メラノーマ細胞、浸潤リンパ球より構成されていた。それぞれの浸潤T細胞の状態を比較すると、PD-1, TIGIT, LAG3などの発現レベルは同等であった。悪化病巣のがん細胞を調べると細胞表面の全てのMHC class Iの発現が無かった。今年度は、悪化病巣のMHC class Iロスの機序を詳細に解析した。まず、全てのMHC class I消失が観察されたため、MHC class Iの共通コンポーネントであるB2Mの発現異常を考え、解析を行った。その結果、コピーナンバーアッセイにてDNA上のB2M遺伝子コード部位が欠損していること、正常B2M遺伝子をこのがん細胞に導入するとMHC class Iの発現が回復すること、を確認した。次に、悪化した病巣内の腫瘍特異的T細胞の機能を評価した。上記の人工的にMHC class Iを復活させた自己がん細胞に強く反応するT細胞を病巣内から増殖させて、改めてMHC class Iを消失したがん細胞と共培養すると、全く認識されないことを確認した。以上より、本研究で解析を行った症例の一つの病巣では、がん細胞ゲノム上のB2M遺伝子の消失によってMHC class Iの全消失が起こっており、その結果病巣内に浸潤する腫瘍特異的T細胞によって認識、制御されなくなった結果、治療抵抗性が生じた、と考えられた。ここまでの結果を、日本がん免疫学会にて発表した。
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