研究課題
CD26はT細胞共刺激分子であると同時にDPPIVジペプチダーゼ活性を有する多機能タンパク質である。血清中にも可溶性CD26 が存在し、免疫系および生理活性物質の調節を行っている。更に乾癬の病変部位においても高発現しており、乾癬病態への関与が示唆されている。以上より、乾癬のかゆみにおけるCD26/DPPIVの役割の解明を目的として以下の研究を行った。血清を用いて、可溶性CD26およびDPPIV酵素活性レベルを比較したところ、尋常性乾癬症例は健常者と比べ、有意に上昇が観察された。そこでCD26 Tgマウスにおいてイミキモドクリームを反復塗布して乾癬モデルマウス(IMQモデル)を作製したところ、野生型のIMQモデルマウスと比較して掻き行動の有意な増加が認められた。以上によりCD26の発現上昇は、乾癬においてかゆみを増悪することが示唆された。次に、そのメカニズムの一つとしてかゆみを伝達する神経ペプチドであるsubstance P(SP)に着目した。11アミノ酸からなるSPは、DPPIV酵素によりSP(5-11)へと2回切断される。乾癬の血清におけるSPの切断状態を評価したところ、SP(5-11)を検出できるELISAでのみ、乾癬患者で有意に発現が上昇していた。以上から乾癬においてはDPPIVにより切断されたSP(5-11)の発現が上昇していると考えられる。更に、SPの皮内投与モデルマウスにおいて、SP(5-11)は完全長SPよりも有意に掻き行動を誘発し、SPのかゆみはDPPIV阻害薬によって顕著に抑制された。また、DPPIV酵素阻害薬はIMQモデルにおいても顕著に掻き行動を抑制した。以上から、CD26/DPPIVは、乾癬においてかゆみを増強していることが示された。そのメカニズムとして、DPPIV酵素活性がかゆみ伝達因子SPを切断してかゆみを調節しているためと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、申請者はCD26/DPPIVが乾癬のかゆみを増悪していることを発見し、そのメカニズムがかゆみ伝達因子SPの分解調節を介していることを明らかにした。更にDPPIV酵素阻害薬が乾癬のかゆみに作用する可能性についても明らかにし、国際かゆみ学会にて発表し、論文雑誌に掲載された。
上記にあるように、申請者はCD26/DPPIVが乾癬のかゆみを増悪していることを発見し、そのメカニズムがかゆみ伝達因子SPの分解調節を介していることを明らかにした。一方当初の予備実験では、CD26Tgマウスを用いて作製した乾癬モデルは、野生型における乾癬モデルと比較して、皮膚の鱗屑、肥厚、紅斑といった乾癬病態の増悪が観察されていた。しかし残念ながらこの結果の再現性がとれず、CD26は乾癬において、かゆみ調節には関わっているものの、病態の増悪には直接関与していない可能性が高まっている。そこで今後は、CD26と他の神経ペプチドの相互作用について着目し、新たなかゆみ調節メカニズムを解明すると共に、乾癬の病態に寄与するCD26関連因子・非関連因子についても解析を行う。
年間の助成金使用額が予定よりも低く抑えられたのは、当初の計画よりも乾癬病態モデルの条件検討が短期間で済んだため、イミキモドクリームおよび実験動物にかかった資金が予定よりも少なくて済んだと考えられる。一方で、前述したとおり、CD26が乾癬の病態を顕著に増悪したとの結果は、現在のところ再現性が得られていない。そこで今年度からは、CD26分子の乾癬の病態に対する間接的な効果を調べ、新たな抗乾癬薬に向けた研究を行うとともに、かゆみの実験を更に発展させ、SP以外のかゆみ伝達因子(神経ペプチド)との相互作用について研究を行い、新規抗かゆみ薬の創製を図る。
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Front Biosci
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J Dermatol Sci.
巻: 86 ページ: 212-221
10.1016/j.jdermsci.2017.03.005.