心的外傷後ストレス障害(PTSD)等の不安障害において情動機構を司る神経回路の機能異常及び過剰なシナプス可塑性が指摘されているが、本神経回路の異常が病態生理の本態であるのか、それとも付随的な現象に過ぎないのかを問うことは従来の技術では困難であった。本研究では、新生・増大したスパイン特異的に集積し、光遺伝学的に樹状突起スパインを収縮させる新規光感受性シナプスプローブAS-PaRac1を用い、PTSDの病態生理における本神経回路網の意義を構成的に理解することを目的とした。 そこで、PTSDにおいて異常が指摘される神経回路網の機能的なマッピングを可能にするため、AS-PaRac1プローブに加え、神経活動依存的にプレシナプスマーカーをも発現するトランスジェニックマウスを確立する。確立したマウスを用い、PTSDモデルとしての恐怖記憶形成における責任神経回路網を特定し、さらにシナプス可塑性をAS-PaRac1により直接的に操作することでこれら回路の異常がPTSD発症にどれほど寄与し得るのかを検証する。 初年度では、神経活動依存的プロモーターや蛍光タンパク質の種類、発現の持続性、発現レベルの適正さの観点から選別、最適化を行った。トランスジェニックマウスの作製には、神経活動に対して急激に応答し、かつ2-3日で分解され”適正な発現レベルを満たす組み合わせのコンストラクトを見出すことが必要である。複数の発現プラスミドを作製し、子宮内電気穿孔法によりマウス胎児脳の視覚野に遺伝子導入した。蛍光タンパク質が視覚野に発現した成体マウスを用い、遮光後、光照射を行う。その後、還流固定、スライス作製、イメージングを行い各種蛍光タンパク質の輝度・局在が経時的にいかに変化するかを調べた。今後も引き続き、トランスジェニックマウスの作製により適するコンストラクトを見出す作業を継続することが必要である。
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