研究実績の概要 |
統合失調症の病態仮説ついて、ドパミン病態・セロトニン病態・GABA病態などがあり、これらが複雑に絡み合って様々な症状を呈すると考えられる。しかし、現状の治療薬では十分に加療できない症状もあり、新しい病態仮説を想定して、検証する必要があると考えられる。本研究では新しい病態仮説として、DNA二重らせんに対するダメージやクロマチン構造の変化が蓄積することで、統合失調症の進行性の分子病態、すなわち残遺状態に至る分子病態になるという仮説を検証している。Phencyclidine, MK-801, methmphetamineの投与による統合失調症モデルラット及びモデルマウスを用いて、DNAダメージに関連した分生物学的・細胞生物学的解析を行っている。海馬のPV neuronにDNA二重鎖切断が起こっていることを示唆する所見を得ているが、さらに海馬以外の大脳皮質や視床・小脳など他の脳部位についての詳細を解析した。また他のNMDA受容体阻害薬であるMK-801や、統合失調症様症状を引き起こすドパミン受容体刺激薬であるmetamphetamineでも同様の現象が起こるかについて解析した。その結果、NMDA受容体阻害薬に比較的特異的、さらに海馬に比較的特異的にPV neuronのDNA二重鎖切断がみられることを見出した。その下流として、PV neuronの転写抑制が起こっていることや、またPV neuronにDNA二重鎖切断が起こりやすい素因となる遺伝子変化を見出した。またこれらは、NMDA受容体阻害薬を連続して投与することで、PV neuronのDNA二重鎖切断や、それに伴う転写抑制が進行することから、残遺状態へ進行する分子メカニズムの一つとして考えられた。
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