研究課題
昨年度、産後の母親の抑うつ状態、および、母親から子へ向けた愛着形成の問題(ボンディング障害)と、妊娠期に女性が主観的に認識しているソーシャルサポートとの関係を検証した。今年度はこれらに加え、うつ病と関連する因子として複数報告されている、自身の養育体験に対する認識(被養育体験)も交絡因子に加えて検証した。その結果、妊娠期に母親が認識する被養育体験、特に過保護に養育されたと感じていること、および、乏しいソーシャルサポートは、産後のボンディング障害を予測した。また妊娠期にボンディング障害がある場合は、産後もボンディング障害であることと関連していた (J Psychiatr Res., 2018)。ボンディング障害は虐待とも関連すると考えられるため、予測することは大きな意義がある。他方、虐待および自死に関連する因子として、母親の躁状態も挙げられる。周産期の躁状態を評価する尺度として、Highs scale がある。我々はこの尺度の妥当性を検証し、因子構造を確認した。結果、高揚 (elation) と焦燥 (agitation)の二つの因子が抽出された (Front Psychiatry, 2018)。さらに抑うつ状態の評価尺度である、Edinburgh Postnatal Depression Scale (EPDS) の因子構造が全周産期期間を通して安定していることも確認した(Sci Rep., 2018)。周産期女性において、抑うつ状態だけではなく躁状態についても同時に評価をすることが重要である。さらに、東日本大震災の影響を非被災地に住む周産期女性がどのように受けるかについても検証した。結果、EPDS、中でも、不安の因子得点は、震災から半年間は震災前に比べて有意に上昇していたが、ボンディング尺度については変化がないことが明らかとなった (Sci Rep., 2018)。
3: やや遅れている
本研究では、すでに申請者が所属している研究グループが集積を行っている周産期女性コホートを用いて、母親の精神的健康と心理社会的要因との関係の調査に加えて、その出生児の心理的・情緒的発達特性や適応行動に関する調査を新たに開始し、平成29年度及び平成30年度末までに生後12か月になる児とその母親200組を組み入れる計画をしていたが、現段階では児に関する調査は組み入れの準備を整えている段階である。児に関するデータ収集は目標数に達していないが、母親の養育機能や抑うつ状態、虐待に関連するボンディング障害、および躁状態に関する評価尺度の妥当性の検証について論文発表を行うなど達成度の高い部分もあるため、「やや遅れている」と自己評価した。
今後も周産期女性コホートを用いた、母親の精神的健康と心理社会的要因との関係の調査を進めるとともに、出生児の心理的・情緒的発達特性や適応行動に関する調査の準備、及び研究協力者のリクルートを進め、データの集積を行っていく。データが集積した時点でデータ解析を開始する。目的変数に、母親の抑うつ状態や不安、母親から児への愛着、児の発達(自閉スペクトラム症)特性や情緒的発達・適応行動、説明変数に、母親の年齢等の生活状況、抑うつ状態、児への愛着、対人応答性、並びに児の性別・自閉スペクトラム症特性等を入れて、重回帰分析を行い、目的変数に対する寄与率を検討する。評価尺度の因子構造に関する探索的及び確認的因子分析、さらに各因子の関係性の検討に共分散構造分析を施行する。平成32年度には、以上についてまとめ、学会発表・論文発表を行いたい。
当初計画していた質問紙の送付に伴い郵送料や謝金等が、研究の停滞により支払われなかったため、次年度使用が生じた。引き続き、研究を遂行し、研究協力者の組み入れと、質問紙の送付、謝金の支払い、さらに成果についての発表のための学会参加等に使用する計画である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件)
J Psychiatr Res.
巻: 105 ページ: 71-77
10.1016/j.jpsychires.2018.09.001
Front Psychiatry.
巻: 28 ページ: -
10.3389/fpsyt.2018.00269
Sci Rep.
巻: 5 ページ: -
10.1038/s41598-018-36101-z
巻: 2 ページ: -
10.1038/s41598-018-30065-w