うつ病の病態機序において、グルタミン酸受容体の1つであるN-methyl-D-aspartate受容体(NMDAR)の関与が指摘されるものの、うつ病患者における抗NMDAR抗体の保有率に関する研究は不足している。本研究では、うつ病を含む気分障害患者の血清・髄液中の抗NMDAR抗体保有率を調査し、また抗体価が精神症状と関連するかを検討した。 岡山大学病院を受診し初期診断が気分障害であった患者のうち同意が得られた63名より、髄液または血清を採取し、cell based assay法を用いて抗NMDAR抗体(NR1A/NR2B IgG抗体)の有無を調べた。また陽性患者では簡易精神症状評価尺度(BPRS)を用いて治療前後の精神症状をスコア化し、抗体価との関連を単回帰分析にて解析した。 63名中4名の髄液から抗NMDAR抗体を検出した。この4名は抗精神病薬・気分安定薬の治療に対して反応が乏しく、神経学的所見は臨床経過に沿って経時的に出現した。検査所見では、脳波異常が3名、頭部MRIの異常所見が 1名、髄液中の細胞数増多が3名、オリゴクローナルバンド陽性が3名であり、1名が血中抗アクアポリン4抗体陽性であった。それぞれの患者に免疫療法や必要に応じた抗腫瘍療法が施行され、効果が見られた。BPRSは、測定不能であった1例を除き、3名で免疫療法後のスコアが減少しており、抗NMDAR抗体の抗体価とBPRSスコアに弱い関連が見られた。 以上のことから、初期診断で気分障害と診断される患者の中に、抗NMDAR抗体脳炎患者が混在している可能性が明らかとなり、これは両疾患がグルタミン酸神経伝達の機能障害という共通の病態機序を持つためであることが示唆された。免疫療法により抗体価が減少しそれに伴い精神症状も改善したことから、初期診断が気分障害の患者においても、抗NMDAR抗体の有無を念頭に入れることが重要である。
|