研究実績の概要 |
末梢血白血球DNAのドパミン受容体D2(DRD2)遺伝子プロモーター領域のメチル化率が統合失調症(SCZ)で低下していることを予備的に確認したが、今回、SCZ以外の精神神経疾患、大うつ病性障害、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)などで同部位のメチル化率を測定した。 まず、健常者を対照としたSCZのセカンドセット(n = 50)においても予備的研究(Yoshino et al., 2016)と同様の結果が得られた。続いてプロモーター領域の更に下流の-141C insertion/deletion多型を含む領域のメチル化率を調べたところ、メチル化率に影響を与えていることを見出した。この多型は、これまで薬剤反応性など副作用と関連すると報告されているが、DRD2遺伝子のメチル化率に影響を与えることで、発現量を制御していることが考えられた。 次に、メチル化率の解析を以下の精神神経疾患で行った。大うつ病性障害(n = 50)では有意な変化を認めなかった。続いてPDやDLBなどの神経変性疾患で検証した。PD(n = 37)ではSCZ同様メチル化率が低下していたが、DLB(n = 30)では上昇していた。PDやDLBはDRD2遺伝子が関与する疾患であり、Lewy bodyの蓄積がみられる点では共通の病理を持つが、Lewy bodyの蓄積する部位が異なっている。今回のDRD2メチル化率の変化の差は、蓄積部位の差で説明できるかもしれない。 以上まとめると、DRD2遺伝子プロモーター領域のメチル化率は-141C insertion/deletion による影響を受けていることが確認できた。そして、SCZで低下しているがMDDでは変化していないことから、精神疾患ではSCZに特異的な変化であると思われた。しかし、PDやDLBでもDRD2遺伝子メチル化率は変化していることから、ドパミン系が関わる精神神経疾患では総じて変化している可能性がある。今回は、バイオマーカーを考え末梢血を試料としたが、今後、脳内でのメチル化率を含めた変化と比較しながら解析する必要があると思われた。
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