アルツハイマー型認知症患者に対して、遺伝子採血、認知機能検査などを行い、ABCA7遺伝子の遺伝子発現、メチル化、一塩基多型と症状等の関連を解析した。 血液から、gDNA、cDNAを抽出し、cDNAから遺伝子発現量を測定し、gDNAからメチル化、一塩基多型の測定を行った。各々のデータでアルツハイマー型認知症50例と健常者50例を比較検討したところ、ABCA7遺伝子の発現量がアルツハイマー型認知症で有意に上昇していることが分かった。同様の症例で、遺伝子発現に与える影響を検討するため、エピジェネティックな観点からメチル化率を算出し、一塩基多型の頻度を測定した。その結果では有意差はみられず、解析したメチル化や一塩基多型が遺伝子発現に関与していることは否定的な結果であり、他の要因が関与していることが考えられた。一方、アルツハイマー型認知症において、罹病期間が長く、認知機能障害が重症になるほど遺伝子発現量は減少しており、ABCA7がアルツハイマー型認知症の病態や進行に関連するバイオマーカーとなりうる可能性を示唆する結果が得られた。今後も症例数を増やしていくとともに、他の要因の関与を検討するなど、遺伝子発現の変化に影響する因子を検討していことや、他のメチル化部位の変化が与える影響なども考慮して研究を進めていく必要があると考えている。また、アルツハイマー型認知症以外の疾患においても同様に検討し、ABCA7遺伝子の認知症やその他の精神疾患におけるバイオマーカーとしての有用性を検討していくこととしており、統合失調症においてABCA7遺伝子発現量が健常対照群に比較し有意に増加していたことを見出し、2018年統合失調症学会にて報告を行った。
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