幼少期における他者との関わりがどのように情動や社会性を発達させるのかはよく分かっていない。我々はこれまでに、ラットの離乳後の隔離飼育が成熟後の社会的認知能力を損なわせることを見出している。ヒトを含む哺乳類の社会行動については近年、下垂体後葉ホルモンとして知られるオキシトシンが脳内の主要な制御因子のひとつであることが示されてきた。そこで本研究ではラットの幼若期における隔離飼育に起因する社会性障害にオキシトシンが関わっている可能性について検討した。 本研究ではこれまでに、雌性ラットの幼若期における隔離飼育が成熟後の社会的嗜好性を低下させ、また社会不安を増強することを行動学的に明らかにした。さらに組織学的解析から、見知らぬ他個体に曝露された時の視床下部オキシトシン産生細胞の活動レベルが隔離飼育ラットにおいて低下していることを見出した。最終年度ではこれらの知見に基づき隔離飼育ラットの社会的嗜好性の低下や社会不安の増強といった社会行動の異常がオキシトシンの補充によってリカバリーできるか否かについて複数の異なる実験条件において検討を行ったところ、オキシトシンの脳室内投与は同モデルの社会行動に対して有意な影響を及ぼさなかった。これらのことから、ラットの幼若期における社会的隔離による成熟後の社会行動異常(社会的嗜好性の低下および社会不安の増強)に対してオキシトシンの補充は直接的な改善効果を見込めない可能性が高いと考えられる。
|