研究実績の概要 |
従来、ヒトの体細胞から神経細胞へと直接誘導して作製したiN細胞ではニューロンの発達の経過を観察することは出来ないとされてきた。そうした神経細胞発達過程はiPS細胞由来の神経幹細胞あるいは直接誘導神経幹細胞を分化させることによってのみ観察できた。しかし、早期iN細胞では特定の時期に限局すればそれらの観察が可能となることを提唱していた(Sagata et al., 2017 Sci Rep.)。 この早期iN細胞は誘導からわずか1週間で観察可能であり、iPS細胞等由来の神経幹細胞の分化という方法と比較して大幅な時間と費用の節約になる。さらに近年iPSを経由した神経細胞では細胞の老化状態など一部の情報がリセットされ、一方iN細胞ではそれらの情報を保持していたという報告もされ(Victor et al., 2018 Nature)、特に患者個人個人の細かな差異が重要な情報となりうる精神疾患などの研究領域ではiN細胞の需要もさらに高まっている。この早期iN細胞が実用的なものであることが証明できれば、多検体・短時間での作製・解析システムの樹立が可能となる。 当該年度においてはこの早期iN細胞の成熟ニューロンマーカー・未成熟ニューロンマーカー等の遺伝子発現プロファイルをより詳細に調査し、新たに成熟ニューロンマーカー遺伝子1種の発現が低く、未成熟ニューロンマーカー遺伝子2種の発現が高いことを明らかにした(Sagata et al., unpublished)。これは先の早期iN細胞がニューロンの発達過程の一部の観察を可能にする仮説の傍証の一つとなり、早期iN細胞の有用性にさらなる期待が高まった。
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