研究実績の概要 |
初年度においては、神経発達障害の一種である自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)を併発しやすいとされる神経線維腫症1型(NF1)の患者由来の線維芽細胞より作出したiN細胞(induced-neuronal cell)の網羅的遺伝子発現解析を行い、その中でMEX3Dと呼ばれる遺伝子の発現が低いことを初めて発見した(Sagata et al., 2017 Sci Rep.)。また、ヒトの体細胞から神経細胞へと直接誘導して作製したiN細胞では「ニューロンの発達の経過」を観察することは出来ないとされてきたが、誘導後早期のiN細胞では特定の時期に限局すればそれらの観察が可能となることを提唱した(Sagata et al., 2017 Sci Rep.)。 昨年度においては、この早期iN細胞の成熟ニューロンマーカー・未成熟ニューロンマーカー等の遺伝子発現プロファイルをより詳細に調査し、新たに成熟ニューロンマーカー遺伝子1種の発現が低く、未成熟ニューロンマーカー遺伝子2種の発現が高いことを明らかにした(論文投稿準備中)。この結果は早期iN細胞がニューロンの発達過程の一部の観察を可能にする仮説の傍証の一つとなり、早期iN細胞の有用性にさらなる期待が高まった。 当該年度においては、NF1のiN細胞での機能低下が疑われるアデニリルシクラーゼの活性化剤であるフォルスコリン存在下でのiN細胞の形態について非常に早い応答(細胞体の隆起・神経突起の伸長など健常iN細胞へ近づく変化)を発見した(論文投稿中)。フォルスコリンの効果は初年度の報告においてもNF1のiN細胞の遺伝子発現を正常化する働きを示しており、アデニリルシクラーゼの活性化がNF1の神経細胞における治療の標的になり得る可能性を示す結果となった。
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