研究課題
間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell; MSC)はその神経保護作用や免疫調整作用から、脳内酸化ストレスをターゲットとしたアルツハイマー病(Alzheimer's disease; AD)新規治療法としての可能性がある。本研究は、ADモデルマウスに対するMSC治療介入を行い、MSC治療を新規治療法として確立するための基礎データを獲得することを目的とする。また、MSC治療によってもたらされる酸化ストレスの改善作用をその分子メカニズムを含めて明らかにすることを目的とする。本研究では7.5 ヶ月齢の APPswe/PS1dE9 マウスに対し、治療群には生後6週齢SDラット骨髄から分離培養したMSC 3×10^5個を尾静脈より静脈内投与し、コントロール群には溶媒のみを投与した。2017年度では、MSC治療によるADモデルマウスの空間認知機能の改善効果、ならびに脳内アミロイドβ(Aβ)プラークを減少させる効果を確認した。また、血液脳関門を通過するレドックス感受性プローブをマウスに投与して電子常磁性共鳴(EPR)信号を測定するイメージング実験にて、MSC治療によってADモデルマウスの脳内酸化ストレス状態を改善させる結果を得た。2018年度では、脳サンプルの生化学的解析にて、MSC治療によるADモデルマウスの脳内可溶性Aβの減少効果を明らかにした。炎症や酸化ストレスに関連する解析としては、脳内ミクログリア動態を組織学的に検討したところMSC治療によってミクログリアの活性が減少する可能性が示唆された。しかし、脳内の各種炎症性サイトカインや還元酵素などの生化学的解析では、MSC治療による改善効果を有意差を持って示すことができなかった。
3: やや遅れている
MSCがADモデルマウスの認知機能やAD病理を改善することを示した。また作用機序の一端として、MSCがADモデルマウスの脳内酸化ストレス状態を改善する可能性を示唆した。一方で抗炎症効果の解析では、脳内の各種炎症性サイトカインの改善効果については有意差を示すことができなかった。本実験モデルでは、ミクログリアによる過剰な炎症の抑制とはまた別の機序でAD病理や脳内酸化ストレス状態の改善をもたらしている可能性が考えられる。以上より、治療メカニズムの解析という点では不十分と考えられる。
MSC治療による抗酸化ストレス作用の解析に関しては、培養神経細胞を用いた実験系を検討している。MSC治療による神経細胞の抗酸化特性の変化や、あるいはミトコンドリア機能の障害などに焦点をあてて解析を考慮する。ADモデルマウスへ対するMSC介入実験については、複数回MSC投与による長期的な移植効果の検討を行い、より高い治療効果をもたらす治療プロトコルについて検討する予定である。
当該年度では、実験試薬や培養に用いるプラスチック製品など、実験室のストック分をある程度使用することで賄うことができた。次年度では、神経細胞初代培養など新たな実験系を検討しており、試薬の新規購入に使用する予定である。
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