研究課題/領域番号 |
17K16389
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
古瀬 研吾 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (60608214)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | うつ病 / 難治性うつ病 / BDNF / 抗うつ薬 / 抗精神病薬 / Brain-derived exosome / 側坐核 / 扁桃体 |
研究実績の概要 |
本研究では,難治性うつ病の脳病態を解明する目的で,うつ病関連脳領域 (前頭皮質・海馬・扁桃体・側坐核) の各分画と,血中脳由来小胞(Brain-derived exosome)分画中における,神経活動性蛋白質変動の連関解析を実施する。うつ病,および難治性うつ病モデルを作成し,脳領域別の、BDNF(脳由来神経栄養因子),miRNA 206(BDNF発現調節因子),およびPSD-95(シナプス活動指標分子)について発現量変化を解析する。併せてBrain-derived exosome分画におけるそれらの分子の発現量変化の比較解析を実施することで,血液から個別の脳神経回路異常の特定を図り,臨床における有効な治療薬の選択や,反応性のより正確な予測手段の確立に結びつけることを目指す。初年度は,Corticosterone(CORT)慢性投与によるうつ病モデルと,さらに胎児期アルコール暴露を加えた難治性うつ病モデルを作成し,抗うつ薬であるセルトラリン(Ser),エスシタロプラム(S-Cit)と抗精神病薬であるブロナンセリン(Blo)を投与し,それぞれの群で行動解析を実施した。強制水泳試験では,うつ病モデル群では健常群と比べ無動時間が約2倍に延長し,二重ストレスによる難治性うつ病モデル群では,うつ病モデル群と比べさらに約1.6倍に延長を示した。また,うつ病モデルにSer,およびS-Citを投与した群では強制水泳試験における無動時間が有意に減少した。さらに,難治性うつ病ではSer群とBlo投与群では強制水泳試験において無動時間の変化は認めず,S-Cit群では無働時間が1/2程度に減少した。加えて,social interaction testでは,難治性うつ病モデルは有意に社会的相互作用の時間の延長を認め,Bloは過剰な社会的相互作用を正常化させたが,S-CItでは変化は認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,実臨床における,うつ病の多彩な類型,すなわち,双極性うつ病,パーソナリティ障害やアルコール依存,胎生期あるいは幼少期の劣悪な環境を背景としたもの,高齢者の変性疾患に類似したもの等について,その生物学的背景を捉えなおすことによって,うつ病の多様性を探求し,その病態理解や類型分類に新たな視点をもたらそうとすることでもある。初年度は,解析に用いる病態モデル動物として,若年期にcorticosterone (CORT)を慢性投与した“うつ病モデルラット”と、胎生期にアルコールを曝露させた上で,若年期にCORTを慢性投与した“難治性うつ病モデルラット”を作成した。その上で,病態モデル群の一部には,抗うつ薬,あるいは抗精神病薬を投与し,行動学的変化について,各群間で比較検討を実施した。現在,血液,血液Exosome,および脳各領域での分子変動解析について実施中で,それらの結果を示すまでには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後,まず,前頭葉・海馬・側坐核・扁桃体のBDNF,miRNA206発現量・神経活動の不均衡がうつ病にどのように関与するかについて,それぞれの分子の発現動態(神経活動の指標にはPSD95)を比較解析する。加えて,血液サンプル中の脳・神経種特異的exosome内のBDNF,miRNA206,およびPSD95を測定し,臨床サンプルを用いての解析の準備とし,治療薬の有効性,治療抵抗性予測の新たな指標としての可能性の探索を進めます。
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次年度使用額が生じた理由 |
血中・脳組織中の分子変動解析が遅れ,一部の測定試薬の使用が翌年度に繰り越しとなった。
血中・脳組織中の分子解析試薬費として計上します。
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