研究課題
本研究の目的は,治療反応性が高いうつ病と,診断・治療が難しく,複雑な難治性うつ病の病態について,血中・脳 (うつ病関連領域) 中のBDNF動態変動に焦点を当て,比較解析を行うものである。初年度は,行動薬理学的解析において,抗うつ薬のSertralineおよびEscitalopramは,青年期Corticosterone慢性投与によるうつ病様行動を抑制すること,一方,Corticosterone慢性投与に,胎生期アルコール曝露を組み合わせて作成した二重ストレス誘発うつ病モデルでは,抗うつ薬のSertralineは効果を示さず,Escitalopramのみが強制水泳試験法によるうつ病様行動を抑制するという結果を得た。また,同二重ストレス誘発うつ病モデルに対しては,抗精神病薬のBlonanserinも抗うつ的効果を示さなかった。次年度(最終年度)では,行動変化と,血中,およびうつ病関連脳領域でのBDNF濃度変化との関連解析を行い,Corticosterone慢性投与誘発うつ病モデルでは,血中,および海馬のBDNF低下の回復が,抗うつ様効果と関連していることを示した。また,二重ストレス誘発うつ病モデルでは,血中のBDNF低下は認められず,海馬のBDNF低下の回復と,血中および側坐核のBDNFの減少が,抗うつ様行動と何らかに関係している可能性を明らかとした。また,興味深いことに,本検討では,二重ストレス誘発うつ病モデルにBlonanserinを投与することによって,血中のBDNFが,抗うつ薬のEscitalopramと同様に低下することが示された。今後,胎生・青年期二重ストレス誘発うつ病モデルがどのような病態モデルなのかについて,双極スペクトラム障害の含有を含め,社会性・認知機能障害の行動変化と脳病態の観点での解析をさらに進めて行く予定である。
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