橋本脳症とは自己免疫性甲状腺炎に伴う自己免疫性脳炎であり、精神症状主体もしくは精神症状単独の病型が存在することが分かっている。精神症状主体の橋本脳症は、一般的な精神疾患と類似するが、この病態は未だ不明であり、診断も困難である。我々は精神症状を主体とする橋本脳症について研究するために、抗甲状腺抗体陽性の精神疾患患者(Psychiatric patients with anti-thyroid antibodies: PPATs)をモデルとして研究を行ってきた。
本研究では、精神疾患患者における、抗甲状腺抗体と抗グルタミン酸受容体抗体の関連性を調べた。横浜市立大学附属病院に入院した精神疾患患者の中で、PPATs18例、抗甲状腺抗体を有さない精神疾患患者(non-PPATs)9例の血清および髄液中のグルタミン酸受容体のサブタイプに対する抗体(GluN1-NT、GluN2B-NT2)をELISAを用いて測定した。また、本学バイオバンクに保管されていた健常者18例の血清抗GluN1-NT抗体および血清抗GluN2B-NT2抗体も測定して対照に用いた。その結果、PPATs群では血清抗GluN1-NT抗体および血清抗GluN2B-NT2抗体の抗体価が健常者群より有意に高値であった。また、PPATs群の髄液中抗GluN1-NT抗体および抗GluN2B-NT2抗体の抗体価は、non-PPATs群に比べて有意に高値であった。この結果より、精神疾患患者における抗甲状腺抗体は、抗グルタミン酸受容体抗体の存在を予測する因子である可能性が示唆された。これは橋本脳症においても抗グルタミン酸受容体抗体が病態に関連する可能性が示唆される結果と考えられ、大変有意義なものと考えられる。
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