アルツハイマー型認知症(AD)における抑うつや精神病症状の機序として,セロトニン・ドパミン神経系の関与が想定される.本研究の目的は,123I-FP-CITを用いたSPECT検査によって,セロトニン・ドパミン神経系の関与を統合的に検討することである. 外来通院中のAD患者と健常者を対象として,神経心理検査,頭部MRIや123I-FP-CITを用いたSPECT検査を行った.MRI画像から得られた解剖学的情報から,関心領域内の123I-FP-CITの集積を評価した.同集積値と脳構造・機能情報や神経心理検査の関係を調べた. 健常者は21名の組み入れを行ったが,AD患者は12名の組み入れにとどまり,リクルートを継続する.このうちの健常者 15名を対象とし,抑うつや心理的ストレスとドパミン神経系の関係を調べた.結果として,線条体の123I-FP-CIT集積値と,Stress Arousal Check List日本語版のストレス因子であるstress scoreとに負の相関がみられ,覚醒度であるarousal scoreとに正の相関がみられた.すなわち,生活での心理的ストレスが強いほど,線条体のDAT密度が低下しており,生活でのいきいき感が強いほど,線条体のDAT密度が増加していると考えられた.また,線条体の123I-FP-CIT集積値とGeriatric Depression Scale(GDS)合計値と負の相関の傾向がみられ,抑うつが強いほど線条体のDAT密度が低下していると考えられた.さらに,GDS合計値とstress scoreやarousal scoreとの間にも有意な相関がみられた.パス解析により,これらの関係を説明する適合度の良いモデルが作成できた.本研究結果より,生活におけるストレスと高齢期の抑うつの関係には,線条体のドパミン神経系の変化が介在していると考えられた.
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