dead CRISPR-Cas9を用いた配列特異的DNAメチル制御システムは用いる遺伝子の巨大さが原因となり、生体への遺伝子導入としてよく用いられているAAVでは使用できなかった。本研究では配列特異的DNAメチル制御システムを改良し、AAVで利用可能なように再構築した上で、AAVのマウスへのinjectionによる、活動個体でのDNA配列特異的な人為的DNAメチル化制御が行動に与える影響の評価を行った。マウスNeuro2A細胞を用いたin vitroでの検証ではCas9とDNAメチル化酵素のDnmt3Aとメチル化補酵素Dnmt3Lの組合せにより高効率の配列特異的DNAメチル化制御を、さらにTet2遺伝子の酵素部位を用いることで配列特異的DNA脱メチル化についても高いDNA脱メチル化効率を実現できるAAVにパッケージング可能範囲で機能するDNAメチル化制御システムが構築できたことが分かった。さらに一般に用いられている精製プロトコルを用いても10^14 copies/ml 以上の高いタイターをもった機能的AAVが得られた。これらのAAVをマウス海馬にインジェクションし、シナプス可塑性制御因子BDNFのプロモーターのDNAメチル化制御を行った結果、in vivoでのDNAメチル化制御のAAVは十分な感染効率を示し、脳内で配列特異的DNAメチル制御システムを機能していることを示唆するデータを得た。また、さらなる検証が必要な段階ではあるものの、海馬におけるBDNFプロモーターのDNAメチル化が活動依存的な遺伝子発現制御に関わっており、BDNFプロモーター特異的なDNAメチル化制御によって行動に影響を与える事を示唆するデータを得ている。そのため、本研究の目的であったエピゲノム治療の前段階としての活動個体におけるDNAメチル化制御システムの検証はほぼ達成できていると考えられる。
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