研究実績の概要 |
本研究は、統合失調症患者の就労を成功するための必要な条件の解明、および個別化治療戦略を確立し、さらなる介入で就労成功率が高まるかを検討した。第一に、就労成功群と未就労群の比較検討では、神経認知機能の差異、ゲーム課題での差異を明らかにした(Igata R, Hori H et al., in revised)。第二に就労成功予測因子としては、神経認知機能や社会認知機能、自己効力感、内発的動機付け、内服アドヒアランスなどが関与していることが示唆された。さらに、新奇抗精神病薬投与に伴う神経認知機能障害の改善度には個別性が高いことが明らかとなった。一般的に抗精神病薬投与に伴う神経認知機能障害の改善度はeffect sizeで0.2~0.3程度であることが知られているが、今回の検討ではeffect sizeは同等であったが、その中でも著名改善症例から悪化症例まで様々だった。またその改善に影響している因子としては、抗精神病薬投与前の認知機能、過去の入院回数、血中MHPG濃度が影響していた(Hori et al., 2019)。また、内服アドヒアランスに関連している再発回数も一部の認知機能に影響を及ぼしている可能性についても明らかにした(Hori et al., in submission)。介入に関しては、神経認知機能に加え社会認知機能の介入方法について、海外における手法を確立するまでにとどまり(Knight and Baune 2018; Knight, Hori et al., 2019)、介入RCTはできなかったが、パイロット的な介入に伴う症例報告での有効性について知見を得た(Hori et al., in submission)。 これらの結果から、統合失調症患者が就労を目指す際には、今までと同様の薬物療法、精神療法に加えて、内服アドヒアランスを高めること、神経認知機能、社会認知機能などのトレーニング、またその個別性を重視しながら治療を組み立てることが有効かもしれない。介入無作為化比較試験に関しては今後の課題である。
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