研究課題/領域番号 |
17K16408
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
田中 智子 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 研究員 (40578986)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 血管障害 / 血液脳関門の破綻 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の発症において成人期以降の後天的要因が重要であると考えられてきたが、最近の知見では発達期の環境要因もADの重要な誘因であるということが示唆されている。研究代表者はADと発達期の環境要因の関連性を解明することを目的とし、実験を実施した。 昨年度、母子分離ストレスがADモデルマウスであるAPPヘテロ変異マウスの空間認知記憶の障害、ADの病理症状であるアミロイドβタンパク質(Aβ)のプラーク形成を促進することを報告した。その後の実験より、以上の所見は、同マウスの1.5ヶ月齢では認められないことを確認している。通常、ヘテロ変異マウスではプラーク形成が9ヶ月と遅いことから、発達期のストレスが発達障害の形成ではなく、AD様症状を促進したと考えられる。血管性認知症だけでなく、多くのAD型認知症でも血管症状が認められる。母子分離ストレスを暴露した場合、ヘテロ変異、野生型ともに前頭前野において血管の狭小化や血管周皮細胞であるペリサイトの減少が認められた。一方で、フィブリノーゲンと血管外流出から同定した血液脳関門(BBB)の破綻が母子分離ストレスを暴露したヘテロ変異マウスでのみ認められた。したがって、環境要因(母子分離ストレス)による影響が血管の狭小化やペリサイトの減弱を惹起し、ここに遺伝的要因(APP変異)が加わることが血管系症状の重症化、すなわちヒトADの病理所見であるBBBの破綻を引き起こし、AD様症状の顕在化を促進すると考えられる。現在は、環境要因がどのような因子に作用し、このような血管障害を引き起こすかを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、ADモデルマウスにおいて、発達期におけるストレス暴露が成長後の認知機能障害やADの病理症状の発現を促進することを明らかにした。さらに、発達期のストレス暴露が血管系の異常を引き起こすことを明らかし、これらの現象がAD様症状の発症促進につながると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、発達期のストレス暴露がどのような因子に影響を与え、血管系の異常を引き起こすのかを検討する。さらに、薬理学的手法や遺伝的手法を用いて、上記で同定した因子が成長後の認知機能、血管にどのような影響を与えるか、因果関係を直接的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額以内で購入を希望する物品が無かったため、次年度へ繰り越した。
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