近年、発達期ストレスなどの発達期の環境要因がアルツハイマー病(AD)の発症や進行に重要であるという疫学的知見が得られている。しかしながら、発達期の環境要因が壮年期以降の病態発現に実際につながるのか。また、どのような潜在的変化を経るのかは明らかでない。一方で、ADでは、アミロイドβ(Aβ)によるプラーク形成(老人斑)やリン酸化タウの蓄積などに先行して血管障害が早期に出現することが提唱されつつあり、初期に出現する血管障害がその後のAD病態発現や悪化に重要であると考えられる。我々は、ADの発症や進行と発達期の環境要因との因果関係を解明することを目的とし、げっ歯類における発達期のストレスである母子分離ストレスがAD病態発現を促進するのか。もし影響を与える場合、どのような潜在的変化を引き起こし、どのような経路を介するのかを検証した。 我々は変異ヒト型APPノックインヘテロマウスに母子分離ストレスを与えることで、早期に脳毛細血管障害(血管周皮細胞であるペリサイトの減少、毛細血管の狭小化)、老人斑、血液脳関門の破綻、ミクログリアの活性化、認知機能の低下が出現することを見出した。また、母子分離ストレスが惹起する変化として、最も先行して免疫機能に重要なミクログリアの形態変化とストレス応答異常を同定し、Experimental Neurologyに掲載された。 発達期ストレスが血管障害をはじめとして,成長過程及び成長後の脳の機能・構造に重大かつ継続的な諸問題を引き起こす機序を明らかにすることは,前兆症状からの診断による早期介入により発症を未然に防ぐ手段の開発につながる。
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