研究課題/領域番号 |
17K16409
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐々木 哲也 筑波大学, 医学医療系, 助教 (10634066)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム / 霊長類モデル / シナプス形成 / シナプス刈り込み / 樹状突起スパイン / 遺伝子発現 / バルプロ酸 |
研究実績の概要 |
ヒトの大脳皮質では、出生直後から興奮性シナプスが急速に増え、児童期に最大値に達した後減少する。自閉症脳ではシナプス数の増加率が大きく、その後の刈り込みが少ないと考えられている。げっ歯類ではシナプス刈り込み現象が観察されないため、自閉症の研究を推進するためには霊長類モデルが必要不可欠である。 自閉症患者では頭周囲長が増加し、灰白質組織が厚くなっていることが報告されている。これは自閉症患者のシナプス刈り込み不全を反映しているものと考えられる。胎生期バルプロ酸(VPA)曝露マーモセット(自閉症様行動を示すことがわかっている)では、生後6か月齢・成体で顕著な脳重量の増加が認められた。前頭前皮質のニューロンの細胞体の大きさは変化がなく、密度は減少していた。灰白質組織の体積の過半をニューロン突起(樹状突起・軸索)が占めていることから、本モデル動物では樹状突起スパイン・軸索が増加していることが示唆された。 本研究では、VPAマーモセットの大脳皮質シナプス形成過程を調査した。生後0, 2,3, 6ヶ月齢, 成体のVPAマーモセットの前頭前皮質(12野)と一次視覚野(V1)の第3層錐体細胞に蛍光色素を注入して基底樹状突起全体を可視化した。VPAマーモセットは、定型発達個体と比較して生後2か月齢以降大きな樹状突起展開面積を持ち、どの発達段階においても長い樹状突起をもっていた。また、VPAマーモセットのスパイン密度は生後2ヶ月齢以降、顕著に上昇していた。定型発達個体では、生後3か月齢から成体にかけて50%以上スパイン密度が低下するのに対して、VPAマーモセットでは有意な変化は観察されず、この霊長類モデルで自閉症患者のシナプス過形成と刈り込み不全を再現できていることが分かった。スパインは、ヘッド・ネックともに直径が細くなっており、形態的なバリエーションが小さくなっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
げっ歯類の胎生期バルプロ酸曝露自閉症様モデルと異なり、VPAマーモセットは自閉症脳の解剖学的特徴を反映する(灰白質の肥厚、スパインの過形成と刈り込み不全など)ことが明らかになった。また解剖学的変化を引き起こす遺伝子発現にも変化が起きていることが示されつつある。今後、新たな自閉症病態モデル動物として治療法の開発に貢献することが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで前頭前皮質area12と一次視覚野V1の樹状突起構造を優先して解析し、自閉症脳の特徴を反映する解剖学的変化が起きていることを示すことができた。今後は、自閉症や統合失調症に強く関与している内側前頭前皮質領野の解析を進める。また「シナプス刈り込み」によって除去される回路の実態について解析を行う予定である。胎生期に投与されたバルプロ酸がどのようなエピジェネティックな変化を起こしているのか検討するため、ChiP-seqを行うことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
樹状突起スパインの可視化実験に使用する対物レンズとマニピュレーターを貸与してもらうことができた。また解析ソフトウェアを他研究者と共用することで、ライセンス更新費用を抑制することができたため支出が減少した。 持ち越した研究費は今年度の研究費と合わせて、分子生物学実験試薬類、組織学的解析に係る試薬類の購入に充てる予定である。国際学会および国内学会に参加し、成果発表や情報の収集に努めたい。また本研究で得られた成果を論文として発表する際の投稿費用の支出を見込んでいる。
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