我々は、「飲酒している画像をアルコール使用障害(以下、AUD)患者が見たら、病的飲酒欲求(渇望)が強まるのでは」という仮説を立てた。これを検証し、AUD患者に特有の脳活動部位を特定するために、機能的MRIを用いてAUD患者を健常者と比較した脳機能画像研究を行った。具体的には飲酒欲求を惹起するような4種類の視覚的刺激画像(①ジュースの静置画像、②日本酒の静置画像、③オレンジジュースを飲んでいる画像、④飲酒している画像)を呈示し、BOLD信号の変化を調べた。画像解析にはMATLABおよびSPM12を用いた。 全脳に対する被験者の反応を、反復測定分散分析を用いて集団解析を行ったところ左右の楔前部および左後部帯状回において交互作用を認めた。その3部位における全被験者のBOLD反応値を取り出して、4種類の画像に対して2群比較をそれぞれ行ったところ、左帯状回においては③画像に対してAUD群は健常者に対して反応が有意に低下(p=0.044)しており、④画像に対してAUD群は健常者に対して反応が有意に上昇(p=0.044)していた。また、左楔前部においては③画像に対してAUD群は健常者に対して反応が有意に低下(p=0.036)していた。 以上の結果より、AUD群は、“ジュースを飲む画像”課題に対して左楔前部および左帯状回においてBOLD反応は有意に低かった。また、AUD群は、“酒を飲む画像”課題に対して左帯状回においてBOLD反応は有意に高かった。今回の刺激画像に対しAUD患者は左帯状回および左楔前部における神経回路の機能異常が示唆された。またこのことからAUD患者は健常者と比較して、アルコール飲料へ過剰反応する可能性を考えた。 以上の結果を、いくつかの国際学会(the 19th ISBRAならびにSfN 2018)において、申請者が発表を行った。
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