臨床的には放射線抵抗性である低酸素細胞は必ず低栄養状態にある。低酸素による放射線抵抗性の機序は未だに曖昧であり、低栄養状態が放射線感受性に影響を与える可能性が考えられる。研究代表者はこれまで低酸素および低栄養状態の放射線抵抗性にDNA2重鎖切断修復酵素ATM が関与する可能性を明らかにしてきた。今回、ATMと同じPI3K-related protein kinasesに属するDNA-PKcsに着目した。DNA-PKcsは低酸素状態において活性化し、放射線感受性に関与することが示唆されている。しかし低栄養状態が及ぼすDNA-PKcsへの影響は不明である。研究代表者は複数の癌細胞株を用い、低栄養処理をしたところ、全ての細胞株においてDNA-PKcsおよび細胞質での既知の機能として報告のあるゴルジ体膜タンパク質GOLPH3の活性化が認められた。この結果はDNA-PKcs欠損細胞では認められなかった。次に低栄養処理された神経膠芽腫細胞の細胞質および核分画サンプルを解析した。両分画において低栄養処理後、DNA-PKcsは活性化されたが、DNA損傷マーカーH2AXの活性化は認められなかった。次にAkt阻害剤およびAkt siRNAを用い、低栄養処理によるDNA-PKcsおよびGOLPH3の活性化への影響を検討した。結果、DNA-PKcsおよびGOLPH3の活性化の抑制がそれぞれ確認された。低栄養状態におけるGOLPH3の活性化に伴うゴルジ体の断片化もAkt阻害剤によって抑制された。これらの結果は、低栄養状態においてAktを介してDNA2重鎖切断と独立に生じたDNA-PKcs活性化がGOLPH3を活性化し、ゴルジ体の形態まで制御することを初めて明らかにした重要な発見である。今後、この機序の更なる解明によって低栄養状態における放射線抵抗性の原因の新たな理解に繋がる未来が期待される。
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