本研究は肝動脈化学塞栓療法(TACE)後の再発・残存肝細胞癌を対象として、重粒子線治療と標準治療の医療経済的な比較を行うことを目的としている。 研究計画に基づき、平成29年度に対象症例の選択、抽出を行い、重粒子線治療群、標準治療群ともに効果指標に関わる臨床データ入力が完了した。診療費用、とくに使用薬剤の項目・費用に関わるデータ入力作業が当初の想定を超えて膨大であったが、診療報酬に関する知識と医療事務の資格を有する研究助手を雇用して対応した。本課題に関連するものとして、重粒子線治療群に対する標準治療であるソラフェニブ、および肝動注リザーバー療法の診療費用のデータの費用対効果分析を行い、第43回リザーバー研究会で発表している。 膨大な費用データの入力作業が研究遂行のボトルネックとなっていたが、平成30年度には医療情報部門の協力のもとプログラムを作成し、詳細な費用データが電子的に抽出可能となった。QOL指標については今後計画書を作成し、調査研究を開始予定であるが、時間的な制約から本研究課題ではシステマティックレビューを行い抽出した過去の報告のQOLデータを使用する予定である。 現時点での解析結果として、効果指標に関しては重粒子線治療群が優れており、重粒子線治療群の診療費用は標準治療群と比較してやや高額となっていた。すでに費用・臨床データとも詳細な分析が可能な状態となっているため、今後LY(life year)を効用値、効果値としてICERを算出し、費用対効果分析を実施する予定となっている。また、今回の研究で用いた手法やプログラムは他疾患の解析にも応用可能であるため、粒子線治療と他標準治療の比較に広く応用可能であると考えられる。
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