研究課題/領域番号 |
17K16425
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
原田 倫太郎 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (20568662)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射線治療 / 低用量抗癌剤 / 子宮頸癌 / 膵臓癌 |
研究実績の概要 |
がん治療における放射線療法では、腫瘍縮小効果を期待して抗癌剤との併用療法が行なわれている。当施設に置いても子宮頸癌および手術不能な膵臓癌に対して局所制御や根治的治療を目的として化学放射線治療が実施されている。子宮頸癌ではシスプラチン(CDDP)が頻用され、膵癌では、ゲムシタビン(GEM)の静脈内投与やカペシタビン(CAPE)の内服が放射線治療と併用されている。 放射線照射と抗癌剤の同時併用で明らかな治療効果が得られるが、治療を継続するために障害となるのが嘔吐や悪心などの副作用の発現である。制吐剤が投与されても症状の改善が認められない患者にとっては、治療の継続が困難である。 そこで当施設では、投与総量と抗腫瘍効果が相関し、血中濃度に依存して副作用が発現するCDDPに注目した。すなわち放射線照射との併用による治療効果を維持し、副作用を軽減するCDDPの低用量(8mg/m2)の連日投与を実施した。この方法では、積算CDDP量が十分量投与可能であること、副作用が軽減され治療成績が週1回のCDDP投与(40mg/m2 )と比較して同等である。これらの症例は臨床治療成績として当施設より報告されている。 本研究では、腫瘍細胞レベルにおける低濃度CDDPと照射線量の効果関係について、(1) 短期間の効果として腫瘍細胞のDNA合成阻害に対する検討、(2)腫瘍細胞に対する比較的長期間の観察が必要なコロニー形成法による腫瘍細胞の生存率に対する検討、これらin vitroの実験結果より(3) マウスに移植した腫瘍細胞の放射線照射と抗癌剤併用による抗腫瘍効果の検討(in vivo)を実施し、臨床に寄与でき得る基礎的な知見を取得することを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度(初年度)では、先ず子宮頸癌の腫瘍細胞としてHeLa細胞を用いて抗癌剤シスプラチン(CDDP)に関する基礎的検討を実施した。CDDP濃度は、体表面積1.5m2 を基本とし、8mg/m2 (12mg/body)からCDDP血漿最高濃度を6.7μg/mlと設定した。 エックス線照射や抗癌剤投与が、それぞれ単独にて腫瘍細胞に傷害を与える線量および薬剤濃度について腫瘍細胞のDNA合成阻害(3H-TdRの取り込み)を指標として検討した。HeLa細胞に対するエックス線単独照射(0-6Gy)では、6Gy照射72時間後に3H-TdRの取り込みが非照射細胞の約半数に減少した。また、CDDP単独では2.5μg/mlの濃度で非処置細胞の約半数の取り込みであった。 放射線照射とCDDP処置濃度の腫瘍細胞に対する傷害の程度を比較検討した。CDDP2.5μg/ml濃度と4Gy+1.25μg/ml併用が同程度の3H-TdRの取り込みがみられ、CDDP 5μg単独と6Gy+ CDDP 2.5μg/mlに同等(非処置細胞1/4以下)のDNA合成阻害が認められた。 腫瘍細胞に対する照射と抗癌剤の併用効果を腫瘍細胞のコロニー形成能を指標として検討した。この方法は放射線生物学実験で使用されているが、細胞が約3週間を費やして増殖する能力は、照射による損傷を修復した結果であると考えられている。エックス線単独照射(2、4、6、8および10Gy)細胞に対する照射とCDDP(2.5および5.0μg/ml)併用の生存曲線からCDDP濃度と処置時間(HeLa細胞に対する接触時間)を検討した。CDDP2.5μg/ml濃度では6時間以上の接触時間が必要であり、5.0μg/mlでは接触2時間で十分な腫瘍細胞の生存率抑制効果が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、前年度に腫瘍細胞レベルで検討した結果を参考に放射線照射と抗癌剤の併用による腫瘍細胞に対する傷害の程度を検討する。この併用効果が発現する作用機序、照射による細胞傷害に抗癌剤が相乗(相加)的な作用を示すのか、抗癌剤による細胞への影響を照射が修飾するのかを明らかにする。 照射と抗癌剤投与の併用による抗腫瘍効果をマウスに移植した腫瘍を用いて検討する。近交系マウス(balb/c/nu/nu 雄 5週齢)の大腿部皮下にHeLa細胞(子宮頸部がん細胞)およびMiaPaCa-2細胞(膵臓がん細胞)を移植し、X線の腫瘍局所照射による腫瘍縮小効果と抗癌剤(CDDPおよびGEM)の併用投与の関連を検討する。担癌マウスの縮小効果を惹起させる最低照射線量(照射単独)および照射方法を確定し、抗癌剤投与の効果を判定する。 実験終了時に腫瘍の組織標本を作製し、病理組織学的検討を行う。特に腫瘍辺縁の細胞に対する放射線照射の傷害程度は、抗癌剤併用効果の発現を予測する指標と思われる。
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