がん細胞への放射線照射は、放射線耐性や薬剤耐性などの形質を持った細胞の出現を誘導することがある。本研究では、放射線照射によるがん細胞の形質獲得細胞の出現を抑制する方法を見出すことで放射線治療効果の向上を目的としている。 がん細胞は突然変異頻度が高く、ゲノム中に多くの変異が蓄積し、主な要因として、ゲノムの不安定性、DNA修復能の低下やDNA損傷の増加が考えられている。放射線照射による突然変異では特有の変異スペクトルを示さないと考えられている。しかし、我々はこれまでに、がん細胞において放射線照射後、いくつかのがんの突然変異の要因となっておりkataegisを引き起こすと示唆されているAPOBEC3B(A3B)が誘導されること、このA3Bの発現が放射線照射後の突然変異に影響を与えることを明らかにした。つまり、放射線照射後、A3Bの発現がA3B依存性の突然変異を増加させている可能性が考えられた。 本年の研究では、放射線照射による突然変異にA3Bがどのように関与しているのかを調査するため、A3Bの発現とHPRT遺伝子の突然変異パターンの解析を行った。A3B KO細胞は、自然突然変異率が低いだけではなく、放射線照射後の突然変異率も低かった。また、これまでの様々な報告の通り、放射線照射後の突然変異はどの細胞群も欠失の割合が高くなった。放射線照射やA3Bの発現の有無に寄らず、A3Bのtarget配列の変異と考えられるC>T変異はHPRT遺伝子の中にほぼなく、A3Bによる点変異は、HPRT遺伝子の変異に影響を及ぼさないことが推測された。しかしながら、APOBEC3Bが放射線照射後のγ-H2AXのfociと放射線照射後の細胞生存率に影響を及ぼすことも同時に明らかとなった。 これらの結果は、A3BがDNA修復に関与する可能性とC>T変異以外の突然変異の増加にも関与している可能性を示唆した。
|