研究課題/領域番号 |
17K16494
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研究機関 | 一般財団法人脳神経疾患研究所 |
研究代表者 |
原田 崇臣 一般財団法人脳神経疾患研究所, 南東北がん陽子線治療センター, 研究員 (70791127)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | BNCT / 低酸素細胞 / アミノ酸トランスポーター / 低酸素誘導因子 |
研究実績の概要 |
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、ホウ素依存的に1回の照射で大線量の粒子線を腫瘍選択的に投与する放射線治療のひとつである。ホウ素原子は熱中性子と核変換反応を起こすことで、周囲に高いエネルギーを与える重荷電粒子を発生させる。発生した粒子の飛程は数マイクロメートル程度であり、これは細胞径とほぼ同等であることから、がん細胞に選択的にホウ素が集積すれば、発生した重荷電粒子によるDNAの損傷はがん細胞内で生じ、集積のない近接の正常細胞には損傷を与えることがなく、その結果、がん細胞のみを死滅させることが理論上可能である。本研究では、大線量の粒子線により傷害された細胞の細胞死の機序を明らかにするとともに、BNCTの治療効果増強に関与する治療標的の存在を見出すことを目的としている。 これまでの研究により、慢性的な低酸素環境で培養された細胞では、通常酸素環境で培養された細胞に比べてホウ素薬剤であるボロノフェニルアラニン(BPA)の取り込みが低下し、中性子照射後の細胞生存率が増加することが明らかになった。また、がん細胞で発現が亢進しており、BPAの取り込みに関与するアミノ酸トランスポーター(LAT1)に関して、低酸素細胞におけるLAT1の発現量は通常酸素環境下で培養した細胞と比較して減少することが明らかになった。これらの結果が複数の細胞種において確認されたことから、BNCTにおける細胞死の機序を考える上で、慢性低酸素環境が重要なファクターである可能性が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題に関する研究進捗はやや遅れつつも着実に進行しているところである。これまでの研究により、慢性低酸素環境がBNCTの治療効果に影響する重要なファクターである可能性が示唆された。このことは、本課題の成果の重要性を決定づける重要な事項であると認識される。しかしながら、低酸素環境におけるBPAの取り込みの減少、およびLAT1の発現低下に関して、いまだその機序は明らかにされていないため、更に踏み込んだ検討が不可欠であると考え、従来の研究計画を1年延長した。 まずは低酸素環境に関する評価を実施した。低酸素条件によるBNCTの効果の減弱を評価する際、一旦低酸素環境を解除してBPAの投与を行っていたが、慢性的な低酸素の評価をするためには永続的な低酸素環境が必要である。そこで、低酸素誘導剤であるデフェロキサミン(DFO)を培養培地中に投与することで永続的な低酸素状態を作成し、DFOによる疑似低酸素条件においてBPAの取り込み量、およびLAT1の発現量を評価した。DFO投与群にて、低酸素環境によって引き起こされる低酸素誘導因子(HIF1)の発現が確認された。また、DFO投与により低酸素環境下と同様にBPAの取り込みの減少、およびLAT1の発現低下が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
低酸素細胞におけるBNCTの効果減弱に関する機序の詳細な解明にあたり、HIF1の細胞内への蓄積が、薬剤の取り込みに関与するアミノ酸トランスポーター(LAT1)の発現量に影響するかどうか評価する。さらには、BNCTとHIF阻害剤の併用治療が低酸素細胞に対するBNCTの治療効果の回復につながるかどうかを評価し、HIF1がBNCTの治療効果増強に関与する治療標的となり得るかどうか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究成果の一端として、BNCTにおける細胞死の機序を考える上で慢性低酸素環境が重要なファクターである可能性が強く示唆された。このことは、本課題の成果の重要性を決定づける重要な事項であると認識され、更に踏み込んだ検討が不可欠であると判断するに至った。そこで、従来の研究計画を1年延長して、慢性低酸素が惹起する低酸素誘導因子の細胞内蓄積が、ホウ素薬剤の取り込み量や薬剤の取り込みに関与するアミノ酸トランスポーターの発現量へ影響する機序を解明する予定である。
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