研究課題
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、ホウ素依存的に1回の照射で大線量の粒子線を腫瘍選択的に投与する放射線治療のひとつである。ホウ素原子は熱中性子と核変換反応を起こすことで、周囲に高いエネルギーを与える重荷電粒子を発生させる。発生した粒子の飛程は数マイクロメートル程度であり、これは細胞径とほぼ同等であることから、がん細胞に選択的にホウ素が集積すれば、発生した重荷電粒子によるDNAの損傷はがん細胞内で生じ、集積のない近接の正常細胞には損傷を与えることがなく、その結果、がん細胞のみを死滅させることが理論上可能である。本研究では、大線量の粒子線により傷害された細胞の細胞死の機序を明らかにするとともに、BNCTの治療効果増強に関与する治療標的の存在を見出すことを目的としている。これまでの研究により、慢性的な低酸素環境で培養された細胞では、通常酸素環境で培養された細胞に比べてホウ素薬剤であるボロノフェニルアラニン(BPA)の取り込みが低下し、中性子照射後の細胞生存率が増加することが明らかになった。また、がん細胞で発現が亢進しており、BPAの取り込みに関与するアミノ酸トランスポーター(LAT1)に関して、低酸素細胞におけるLAT1の発現量は通常酸素環境下で培養した細胞と比較して減少することが明らかになった。さらに、低酸素環境で細胞内に蓄積される低酸素誘導因子(HIF-1α)のノックダウンサンプルにおいてLAT1の発現回復が確認された。以上のことから、低酸素細胞におけるBNCTの治療効果の低下には、低酸素応答により蓄積されたHIF-1αによるLAT1遺伝子発現の低下が関与することが示唆された。BNCTにおけるHIF阻害剤(YC-1)の併用は、低酸素細胞に対するBNCTの治療効果を増感させる可能性がある。
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Journal of Radiation Research
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10.1093/jrr/rraa024