研究課題/領域番号 |
17K16495
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
謝 琳 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 標識薬剤開発部, 研究員(定常) (30623558)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | TSPO / 先制医療 / 肝疾患 / PET診断 |
研究実績の概要 |
バイオマーカーに基づく発症前診断は先制医療実現の鍵を握っている。本研究では、先制的肝臓医療の実現に向けて、独自に発見した肝疾患の新規バイオマーカーであるTranslocator protein(18kDa)(TSPO)を起点とし、肝炎、肝硬変、肝がんへの発病と進行を低侵襲かつ高精度で捉えるTSPO-PET診断法を確立することを目的とした。 上記の目標を達成するため、2017年度では、51例のヒト肝臓検体とその詳細な臨床情報の収集と整合を行った。2018年度では、全症例を対象にTSPOの発現量及びTSPOプローブで ある[18F]FEDACとの結合を調べ、TSPOの遺伝子多型の解析を進めた。 51例のヒト肝臓検体を対象として、インビトロARGおよび免疫組織化学により、肝臓におけるTSPOの発現量を調べ、[18F]FEDACとの特異結合の検証を行った。その結果、2017年度に病理スコアを2点以下と評価された正常肝臓検体におけるTSPOの発現は非常に少なく、 [18F]FEDACとの特異結合を認めなかったことに対し、3-5点以内の単純性脂肪肝、脂肪肝炎、5点以上の肝硬変検体では、肝臓TSPO発現量が増加し、[18F]FEDACとの高い特異結合が確認された。同時に一部の乖離症例も認められた。今回のヒト肝臓検体はコーカソイド39例であったため、その乖離の原因として、これまでの神経疾患研究でも報告されたように、殆どの既知TSPOプローブと結合しない特殊なTSPO多型症例「LABs」に遭遇したと考えられ、リアルタイムPCR によりTSPOの遺伝子多型を解析した。その結果、既知TSPOプローブに高い結合性があるHABsは25例、中程度結合性と持つMABsは22例、結合しないLABsは4例が存在していた。従って、TSPOの遺伝子多型は肝臓検体におけるTSPOの発現量が[18F]FEDAC結合率との乖離の原因であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト肝臓検体を利用して、肝疾患バイオマーカーであるTSPO-PET診断法の実験系及び評価系の整備を行い、肝臓におけるTSPOの遺伝子多型を発見できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた結果を基に、2019年度からTSPOの遺伝子多型の解析結果を取り入れ、ヒト肝疾患の各段階におけるTSPOの発現量、[18F]FEDACとの結合率、及び患者の臨床情報を統合し、これらの3者相関性を解析する予定である。また、従来と全く異なる構造を有するTSPOのPETプローブの開発も視野に入れ研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画においては、肝臓組織標本の作製及び病理染色は外部に委託する予定であったが、他の研究者からの協力を得て、委託を行うことなく、研究を進めることができた。そのため、一部の委託金を節約し、助成金の繰越を生じた。 2019年度では、肝疾患におけるTSPOが果たす役割を解明し、また、新規TSPOPETプローブを開発する予定である。そのため、定量解析ソフトウェア、試薬および実験消耗品の大量使用により、購入費用が高くなると予想し、2018年度の繰越分と合わせて研究を進めていく予定である。
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