研究実績の概要 |
本研究はバイスタンダー効果に線質依存性があるか評価する事を目的とした。そのために放射線により生成されるOHラジカルをチオ尿素で消去し異なる線質を模擬した。本年度は、1.X線照射実験でヒト肺がんA549細胞にX線をチオ尿素有(TU+)・無(TU-)条件で照射し、同一生存率を示す線量に対するバイスタンダー効果を明らかにする為、細胞生存率からLQ Modelで生存率曲線を求めた。またチオ尿素によるOHラジカル捕獲効率を活性酸素種蛍光試薬の蛍光量から測定した。その結果同一生存率において、TU+はTU-に対して約45%のOHラジカルを消去する事が分かった。次にバイスタンダー因子とその伝播機序を共通の指標で評価できる実験系を検討した。初めに窒素化物ラジカル(NO)及びその産生源のNO合成酵素(NOS:iNOS, nNOS, eNOS)を検討した。この細胞では3種のNOSのうちiNOSとnNOSを検出できた。またX線照射による細胞内NO増加を蛍光試薬で確認できたが、NOSの活性化は確認できなかった。そこで他のバイスタンダー因子をマイクロアレイにより探索し、プロスタグランジン(PGE2)及びその代謝に関与するシクロオキシゲナーゼ-2 (COX-2)関連遺伝子を確認できた。その為細胞を照射し、8,24時間後の培地中PGE2濃度を測定した所、非照射条件と比較して顕著に増加した。また照射細胞および共培養したバイスタンダー細胞のCOX-2増加を確認した。この結果は第60回日本放射線影響学会で発表した。今後PGE2とCOX-2をバイスタンダー因子及び応答の指標とし、バイスタンダー効果の線質依存性を評価する。2.マイクロビーム照射実験においては照射がん細胞と共培養した非照射正常細胞にγ-H2AXの誘導を確認した[Mutat Res, 2017]。また、これはNO捕獲剤によって抑制される事を見出した。
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