研究実績の概要 |
本研究は放射線誘発バイスタンダー効果に線質依存性があるか評価することを目的とした。そのために放射線により生成されるヒドロキシラジカルを、チオ尿素で消去することで異なる線質を模擬した。ヒト肺がんA549細胞にチオ尿素有(TU+)・無(TU-)条件でX線照射し、同一生存率を示す線量に対するバイスタンダー効果を評価する為、細胞生存率からLQ Modelで生存率曲線を求めた。またチオ尿素によるOHラジカル捕獲効率を活性酸素種蛍光試薬の蛍光量から測定した。その結果同一生存率において、TU+はTU-に対して約45%のOHラジカルを消去し、鉄イオン(500 MeV/n)に相当した[Maeyama et al, Radiat Phys Chem, 2011]。上記の生存率曲線を基に、本年度は、バイスタンダー因子ならびにバイスタンダー効果の指標として、プロスタグランジン(PGE2)及びその代謝に関与するシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現について線質依存性があるかを評価した。はじめに、X線をA549細胞に1, 3, 5, 8 Gy照射したところ、COX-2およびPGE2の産生量は、5 Gyで最大を示した。それに対し、TU+条件でのX線照射(5 Gy)を行った場合、有意なCOX-2とPGE2の抑制が見られた。これは同一生存率を示すチオ尿素有の8 Gyにおいても、同様であった。以上の結果から、放射線誘発バイスタンダー効果には線質依存性が存在することが明らかになった。そして、COX-2とPGE2を指標とした場合、放射線の線質のうち、間接作用と直接作用の量や割合が、バイスタンダー効果(因子)の発現および伝播の決定に重要な役割を担っていることが判明した。これらの成果はJournal of Radiation Researchに投稿し、掲載された。
|