現在放射線がん治療では様々な線質の放射線が用いられ、それぞれの放射線がもつ特性を活かした治療がなされている。しかし、照射領域外の細胞に与えられる影響(放射線誘発バイスタンダー効果)の線質依存性については未だ不明な点が多い。そこで本研究は放射線誘発バイスタンダー効果に線質依存性があるか定量的に評価することを目的とした。そのために細胞への硬X線照射時に間接作用の主因である・OHの捕獲剤(thio-urea:TU)をヒト肺がんA549細胞培養皿に添加して間接作用を抑制することで直接作用比を高めるという方法を用い、細胞集団中の線量付与量が比較間で一定になるようにした。さらに、・OH捕獲剤添加条件(TU+)と無添加条件(TU-)間の照射細胞生存率は同一となるようにした。つまり、間接作用と直接作用の比のみに着目できる実験系を確立した。本実験系を用い、異なる線質におけるバイスタンダー効果をProstaglandineE2(PGE2)及びその代謝に関与するCyclooxygenase-2(COX-2)の発現を指標に評価した結果、線質によってバイスタンダー効果の発現経路が異なることが示唆された。そこでCOX-2上流分子の活性を確認したところ、TU+条件のバイスタンダー細胞特異的にNuclear Factor-kappa B(NF-κB)の活性化が確認された。一方でTU-条件のバイスタンダー細胞ではProtein KinaseB (Akt)の活性化が起きていたが、TU+条件でAktの活性はむしろ減少する傾向を示した。つまり、本研究成果は線質によってバイスタンダー効果の経路は変化することを見出し、その発生機序の一部を明らかにした。これは放射線がん治療における局所制御率の制御等による治療の高度化において重要な知見であると考えられ、今後より詳細な分子機序の解明を行っていく。
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