【背景】Wnt5aは、Wntシグナル経路のβ-カテニン非依存性経路の代表的なリガンドである。我々は、①Wnt5a陽性乳癌はエストロゲンレセプター(ER)陽性に属し、②悪性度が高く予後が悪いことを解明した。予後不良の原因として、ER陽性乳癌のホルモン療法抵抗性に最も関与するとされるPI3K-AKT-mTOR経路が関与するのか、またWnt5a発現が薬剤感受性に影響を与えるのかを検討した。 【方法/結果】 ER陽性乳癌細胞株であるMCF7に、Wnt5aを強制発現させた細胞株(以下MCF7/Wnt5a+)を樹立した。PI3K-AKT-mTOR経路を亢進させるPIK3CA遺伝子変異がWnt5aの上流因子として関与するのかをreal-time PCR法で解析したが、有意な相関は認めなかった。また、PI3K-AKT-mTOR経路がWnt5aの下流因子として関与するかをウェスタンブロッティングを行い解析したが、有意な相関は認めなかった。そこで、Wnt5a発現によって発現変動する遺伝子群を、DNAマイクロアレイ のパスウェイ解析で検索した結果、Drug metabolism - cytochrome P450(以下CYP)のパスウェイのみが発現亢進していた( p=0.044 )。更に、MCF7/Wnt5a+とMCF7、MCF7/Wnt5a-に対し、エピルビシン 、パクリタキセル、タモキシフェンのMTT assayを行った結果、MCF7/Wnt5a+の方が、パクリタキセル、タモキシフェンに対する薬剤感受性が低かった( p<0.05 )。それら2剤は、CYPの分子種であるCYP3A4、CYP2D6によって代謝されることがわかっている。 【結語】Wnt5a陽性乳癌では、パクリタキセル、タモキシフェンの代謝に関与するCYP発現が亢進することで薬剤感受性低下を引き起こし、予後不良に繋がる可能性がある。
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