我々は、当初予定していたマイトファジーにおけるBRCA1の機能の実証を試みたが、BRCA1とマイトファジーの関連性を証明することはできなかった。しかしながら、乳癌細胞株を用いたミトコンドリアにおけるBRCA1の機能探索研究において、ミトコンドリア標的薬剤の添加により、BRCA1タンパクが急速に分解されることを偶然にも発見した。さらに、このBRCA1の主な分解メカニズムとして、ミトコンドリアダメージによりPINK1の発現が上昇すると同時にParkinが誘導され、Parkinが直接的にBRCA1をユビキチン化し分解することが明らかになった。また、乳癌細胞株を用いてBRCA1 ノックダウンをおこなうと、細胞増殖やコロニー形成は抑制された。さらに、乳癌患者手術検体を用いて免疫染色をおこなうと、乳癌組織では正常乳腺組織と比較し、BRCA1高発現かつPINK1/ Parkin低発現と、両者の発現の逆相関が認められた。この結果は、The Cancer Genome Atlasデータベースを用いた解析結果においても同様の傾向であった。さらに、同データベースを用いた解析において、乳癌患者における無再発生存率(RFS)とBRCA1、PINK1/ Parkinの発現を比較すると、RFS不良乳癌患者において、BRCA1高発現、PINK1/ Parkin低発現の傾向が認められた。 以上より、今回我々は、1)ミトコンドリア損傷に応答してPINK1-Parkinが活性化することによりユビキチン-プロテアソームシステムを介してBRCA1の分解が誘導される。 2)BRCA1は、乳癌細胞の増殖を促進する。 3)患者検体を用いた免疫染色及び癌ゲノムデータセット解析により、乳癌組織においてPINK1 / Parkin低発現、BRCA1高発現であることを明らかにした。
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