研究課題/領域番号 |
17K16543
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
奥村 雄一郎 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (20768949)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / 転移メカニズム / In vivo selection / 統合プロファイリング / 網羅的遺伝子解析 |
研究実績の概要 |
ヒト肝細胞癌細胞株HuH-7-Lucを用いて、In vivo selectionを4サイクル繰り返すことで高肝内転移能株を樹立した。具体的には免疫不全マウスであるSCID/Beigeマウスを用いて脾臓内に投与し、経門脈的に肝内に腫瘍を形成しその後腫瘍を摘出し、コラゲナーゼ処理を加え、シャーレ内で培養した後に再投与するというサイクルを繰り返した。当初の計画で予定していた尾静脈投与による肺腫瘍の形成を用いた高肝外転移モデルの作成は腫瘍形成を認めなかったため断念した。また、HuH-7以外の細胞株としてHep-G2、Hep-3Bを用いたモデルでも腫瘍形成を認めなかったため断念した。 親株と樹立した株を用いて、in vitro、in vivoで転移能を比較検討した。高肝内転移能株では、増殖能の上昇およびアポトーシス能、アノイキス能の抑制を認めた。一方、浸潤能、遊走能、細胞内皮遊走能、CD13やCD133などの癌幹細胞マーカーの発現に関しては、2つの細胞株間に差を認めなかった。親株と樹立した高肝内転移能株を用いた並列投与による腫瘍形成能の検討では高肝内転移能株で有意な腫瘍形成能の上昇を認めた。肝に形成された腫瘍は、N/C比が高く、やや分化度が低下した腫瘍を認め、また門脈内にviableな腫瘍塊を認め、臨床的な門脈内腫瘍栓と類似した像を認めた。 次に親株と高肝内転移能株におけるmRNAおよびmicroRNAの発現変化を統合プロファイリングの手法で比較検討し、転移に関わる遺伝子群の同定・解析を行っている。今後、バイオインフォマティクスの手法によって肝細胞癌の転移機序に関わるmRNA-microRNAの絞込みを行い、治療応用可能なターゲット候補としてmRNA-microRNAの組み合わせを抽出する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究実施計画においては、①In vivo selectionによる臓器別転移株樹立、②臓器別転移株と親株の網羅的発現解析を行う予定であった。当初高肝内転移能株と高肝外転移能株の両者の樹立を予定していたが、肝外転移能株は生着を認めなかったため、樹立には至らなかった。高肝内転移能株については脾臓投与モデルを用いたIn vivo selectionを4サイクル繰り返すことで樹立することが可能であった。親株と樹立した高肝内転移能株を用いて、in vitro、in vivoで転移能を比較検討した結果からは、浸潤能、遊走能、細胞内皮遊走能、幹細胞能に関する評価では変化を認めなかったが、細胞増殖能の亢進およびアポトーシスは高転移株にて低下していた。このことから、アポトーシスに関連した腫瘍形成能の関与が示唆された。また親株と樹立した高肝内転移能株を用いて腫瘍形成能の検討を、脾臓投与および投与後脾摘モデルにて並列で比較検討した。その結果、親株では腫瘍の形成を認めなかったのに対して、高肝内転移能株で有意な腫瘍形成能の上昇を認めた。さらに、平成30年度の研究実施計画にしていたmRNAおよびmicroRNAの発現変化の統合プロファイリングに関しても、RNAの抽出およびQuality checkは終了しており、東レに検体を送付し、アッセイは終了している。現在、肝内転移に関連するターゲットの同定および解析を行っている。今後の更なる解析で肝細胞癌の転移機序の解明に繋がることが予想される。 このように肝細胞癌において、仮説を裏付ける結果が出ており、当初の予定より先に進んでいる状況である。そのため、おおむね順調との判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
申請書における平成30年度の研究計画では、統合プロファイリングとしているが、平成29年度内に、RNAの抽出およびQuality checkは終了しており、東レに検体を送付済みである。現在、アッセイは終了しており、結果の解析を行っている。 平成30年度においては、肝細胞癌の肝内転移におけるメカニズムの解明に向けて、同定されたターゲットのmRNA-microRNAに関してさらに検討を進める予定である。同定されたmRNA-microRNAの発現に関して、先に樹立した高肝内転移能株を用いてqPCR、ルシフェラーゼアッセイなどによって得られた結果の妥当性の確認を行う。また同定されたターゲットに対して、shRNAによる発現抑制、プラスミドを用いた遺伝子導入、anti-miRNAやpre-miRNAによるmiRNAの発現調節などを行い、in vitro、in vivoにおいて機能解析を行っていく予定である。ここまでの結果から高肝内転移のメカニズムとしてアポトーシス能、接着能、あるいは血管新生能の関与が疑われる。特に、細胞株での比較検討において著明な変化が確認されているアポトーシス能は有力であり、アポトーシス能に着目した実験系も施行する予定である。同定したターゲットmRNAおよびターゲットmicroRNAが肝細胞癌における新たな治療標的となり得るか、あるいは肝内転移のバイオマーカーとして応用可能かどうかについての検討を行う予定である。
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