活性酸素の構成要素の一つである過酸化水素は膜透過性が高く、活性酸素の中では比較的安定しているとされており、正常細胞より癌細胞で多く発現していることがわかっている。そのため、過酸化水素に応答して活性型となる改変型ゲムシタビンは、より癌細胞に特異的に作用する可能性がある。今回我々は、大阪大学薬学部との共同研究で、過酸化水素応答性の改変型ゲムシタビンを用いて、副作用の軽減を目的とした新たな膵癌治療法の開発をめざし、以下の研究を行った。 まず、膵管上皮正常細胞株と膵癌細胞株で細胞内に含まれる過酸化水素の量を比較したところ、膵癌細胞株のほうが過酸化水素を多く含んでいた。次に、膵癌細胞株で、改変型ゲムシタビンが細胞増殖抑制やアポトーシスを示すことを確認した。また、細胞内過酸化水素量を上昇させる目的でグルコース拮抗阻害剤2- デオキシグルコース(以下2-DG)を用いた。2-DG単独で膵癌細胞株に暴露し、過酸化水素濃度を上昇させつつ、細胞増殖抑制効果を認めない最大濃度を決定した。決定した2-DGの濃度において改変型ゲムシタビンに対する2-DGの相乗効果を証明するために、改変型ゲムシタビン単独と2-DGを加えた改変型ゲムシタビンとを比較したところ2-DGを加えたもののほうが、細胞増殖抑制効果およびアポトーシスが増強することを確認した。 ヌードマウスの実験では膵癌細胞株PSN1を用いて皮下腫瘍モデルを作成し、通常型および改変型ゲムシタビンをそれぞれマウスに投与して抗腫瘍効果や副作用について評価した。腫瘍体積や体重減少は通常型と改変型で差はなかった。一方で、骨髄抑制については改変型で骨髄抑制が軽減されていた。マウスの腫瘍、肝臓、腎臓、骨髄を採取し、質量分析を用いてゲムシタビンの蓄積を評価したところ、腫瘍では両群間に差はなかったが、骨髄では改変型のほうが、検出されたゲムシタビンは少なかった。
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