研究課題
①2002年~2012年に術前未治療で根治術を施行した食道扁平上皮癌80例の切除標本(FFPE)を用い、Laser microdissectionにより癌部DNAを抽出し、リアルタイムPCR法でCO1遺伝子と核DNAの比よりmtDNAコピー数を測定。20例について非癌部食道粘膜のmtDNAコピー数と比較すると、癌部では56.0% (37.4-234.5%)と有意に減少していた。癌部80例での検討では、mtDNAコピー数低値群で有意に病理学的深達度及び病理学的病期が進行していた。また、低値群で有意に5年生存率が不良であり(31.5% vs 68.4%, p<0.01)、mtDNAコピー数は独立予後因子であった。②ミトコンドリア転写因子A(TFAM)をshRNAでknockdown(KD)し、mtDNAコピー数減少細胞株を樹立した(TE8:約40%、TE11:約60%)。遺伝子発現についてRT-PCR法およびWBを施行すると、TFAM-KD細胞ではE-cadherinの低下、N-cadherin / vimentin / zeb-1の上昇が見られた。さらにMatrigel-invasion assay、Scratch-wound healing assayを行ったところ、TFAM-KD細胞は浸潤能、遊走能が有意に亢進していた。一方、癌幹細胞マーカーであるCD44について、mRNA及び蛋白発現をRT-PCRとフローサイトメトリーで測定した結果、TFAM-KD細胞でCD44のmRNA及び蛋白発現の上昇を認めた。Tumor sphere formation assayを行ったところ、TFAM-KD細胞で腫瘍形成能が有意に亢進していた。以上の結果よりmtDNAコピー数減少細胞は、癌の悪性度と関連する上皮間葉転換、癌幹細胞化をきたしていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
食道癌において、ミトコンドリアDNA減少細胞株を樹立することができ、機能解析を行った結果、ミトコンドリアDNAコピー数が、癌幹細胞性や上皮間葉転換と関連することを発見した。臨床サンプルにおいても、癌組織は正常上皮と比べミトコンドリアDNAコピー数が減少しており、減少の程度が大きい方が予後不良であることを発見した。これらの研究成果を、米国癌学会(AACR)において発表し、さらにPLOSONE誌に論文発表を行うことができ、順調に研究が進捗していると判断している。
現状では、ミトコンドリアDNAコピー数と癌の悪性度特に癌幹細胞性及び上皮間葉転換との関連性を発見したが、そのメカニズムに関しては不明である。今後は、ミトコンドリアDNAコピー数減少がどのような機序を介して、癌幹細胞性や上皮間葉転換を引き起こすかを検討する予定である。また、化学療法抵抗性との関連性に関しても、検討を加える計画を立てている。これらの結果を、in vivoマウスモデルを使用してさらに検証実験を行う予定である。
ほぼ計画とおりに使用している。残額は次年度に試薬の購入にあてる予定である。
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PLOS ONE
巻: 13 ページ: e0193159
10.1371/journal.pone.0193159