研究実績の概要 |
腹膜播種は、腫瘍自体より遊離した癌細胞(peritoneal exfoliated cancer cell; PECC)の 微小転移から形成され、進展していく。PECCは足場として、大網や腹膜に表面に局在するmilky spotと呼ばれる原始的なリンパ組織に、他の臓器に先んじて接着する。milky spot は、腹膜播種の癌細胞の足場形成部となるだけで なく、同時に腹腔内の腫瘍特異的免疫応答に関わる二次リンパ組織である。細胞障害性 T 細胞の供給源である、幹細胞メモリー様 T(stem cell-memory-like, Tscm-like)細胞のはmilky spot に集簇し、腹腔内抗腫瘍免疫応答において重要な役割を担うと強く推測される。そのためその機能、動態を解析することは腹膜播種の抗腫瘍免疫紀行のメカニズムを解明する上で重要である。また同時に、抗PD-L1抗体腹腔内投与を含めた治療の可能性を探求する研究である。 腹膜播種モデルマウスの作成に着手した。milky spotでの免疫応答の破綻のメカニズムを解明するために、経時的に進行が観察可能なモデルが望ましいと考えられた。腹腔内に投与する腫瘍細胞の細胞数の過多により早期にマウスが死亡するが、少量であれば腹膜播種が樹立しない。肉眼的に確認する以外に腹膜播種を確認する方法がないため、適切な細胞数、適切な解析時期を決定するのに難渋した。BALB/cマウスに大腸癌細胞株であるMC-38を腹腔内投与し、経時的に安定して評価可能な系を確立した。大網内、および腹腔内のT細胞の分布をフローサイトメトリーを用いて評価した。大網に関しては、ナイーブマウスの大網からリンパ球を抽出し評価する系が安定せず、T細胞の詳細な評価にまでは至らなかった。腹膜播種モデルで腹腔内のCD8 T細胞は腹膜播種の進行に関わらず、ほぼ一定の割合を示した。
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