研究課題/領域番号 |
17K16555
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
向山 順子 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (70734987)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大腸癌 / 癌幹細胞 / RNA結合蛋白 / QKI5 / マイクロRNA / miR-221 |
研究実績の概要 |
本邦における大腸癌による死亡数は増加の一途にあり、死因の大半である転移や再発の克服が大腸癌の予後改善のための重要課題である。大腸癌幹細胞は、全体の約10%以下と少数の細胞集団であるが、治療抵抗性が高く転移や再発に深くかかわる。また、近年、癌幹細胞の中でも抗癌剤や放射線治療に対する抵抗性が高いサブグループが存在することが明らかになりつつあり、多様性を生み出す分子機構として癌幹細胞のエピジェネテッィク制御機構に注目が集まっている。 私たちはヒト癌細胞株の解析では生体内と異なるエピジェネティック修飾が加わることに着目し、培養や薬品による修飾の少ない手術検体由来の大腸癌幹細胞を直接的に解析することで、大腸癌幹細胞で極めて選択的に癌遺伝子miR-221の発現が上昇していること、miR-221の発現抑制により大腸癌幹細胞の腫瘍形成能が低下することを明らかにしてきた。さらに、ヒト大腸癌細胞株やヒト大腸癌異種移植マウスを用いたルシフェラーゼアッセイ、ウエスタンブロット解析によりmiR-221の新規標的遺伝子としてRNA結合蛋白Quaking 5(QKI5)を同定した。以上の研究成果を踏まえ、本研究では、QKI5が癌幹細胞制御遺伝子を制御する分子機構を解明し、大腸癌幹細胞の制御におけるmiR-221-QKI5経路の重要性を解明する。本研究により癌幹細胞の新たなエピジェネティック制御機構を明らかにすることは、大腸癌の制圧に向けた重要な知見となり、miR-221を標的とした核酸創薬など新規治療戦略に応用できる可能性をもつ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
QKI5による癌幹細胞制御機能を解析するために、レンチウイルスにてヒト大腸癌細胞株HCT116にQKI5を導入し、オルガノイド培養系による腫瘍原性の変化を解析した。コントロールと比較し、QKIを過剰発現させた大腸癌細胞では有意にコロニーの形成が抑制された。続いて、臨床検体のヒト大腸癌を免疫不全マウスに移植することでヒト大腸癌異種移植マウスを樹立し、QKIを過剰発現させた同細胞を用いてマウスへの移植実験を行った。コントロールと比較し、QKI過剰発現細胞から形成された腫瘍は有意に増殖が遅く、QKIが大腸癌の増殖を抑制することが示唆された。以上のように、遺伝子導入による細胞特性の変化の評価には、癌細胞株だけでなく、臨床検体から樹立したヒト大腸癌異種移植マウス腫瘍を用い、可能な限り臨床検体に近い状態のヒト大腸癌幹細胞を解析した。 TCGAの大規模データベースのインフォマティクス解析を行い、臨床検体でもmiR-221と標的遺伝子RNA結合蛋白QKI5は臨床検体においても発現レベルが逆相関していることを明らかにした。本結果より、実際に生体内でもmiR-221によりQKI5が制御されていることが示唆された。また、同データベースの解析によりmiR-221の発現が高い大腸癌は全生存期間(Overall Survival)が短く予後が不良であることを明らかにした。さらに、多変量解析により、miR-221の発現の多寡が大腸癌の独立した予後規定因子であることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
現在幅広く行われている癌ゲノム解析では、癌幹細胞を反映したデータを得ることは難しい。そのため、本研究では米国コロンビア大学と共同で、臨床検体の大腸癌幹細胞のシングルセル解析を行う。具体的には、QKI5と標的とする癌幹細胞関連遺伝子の発現を解析する。さらに、結果のバイオインフォマティクス解析を行い、QKI5とそれらの標的遺伝子の発現の関連を確認する。また、正常の大腸組織幹細胞でのmiR-221の働きを解明するために、マウスの腸管上皮細胞よりセルソーターにて組織幹細胞を分離し、マイクロRNA-sequence解析を行う。研究計画は概ね順調に進んでおり、今年度中に本研究の成果をまとめ論文を投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に予定していたQKI腸管特異的ノックアウトマウスの作製を中止したため。 次年度使用額はマウス腸管のマイクロRNA-sequence解析などに用いる。
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