肝癌に対して肝切除を行った症例について、9例から癌部と非癌部の線維芽細胞の抽出に成功した。それぞれ抽出した細胞については、分離培養を行った。 癌関連線維芽細胞(CAF)と非癌部線維芽細胞(NF)の培養上清を抽出し、HCC細胞株に添加したところ、CAFによる刺激のほうが有意に浸潤能を上昇させた。また、健常人の単球に上清を添加したところ、CAFによる刺激のほうが有意に遊走能を上昇させた。 CAFとNFの発現する遺伝子の比較をアレイで行ったところ、CAFではBMP4の発現が上昇していることが明らかとなった。実際に、肝癌切除症例の標本において、BMP4の免疫染色を行ったところ、非癌部の線維芽細胞に比べて、癌周囲の線維芽細胞に多く染色された。 BMP4の刺激を線維芽細胞に加えたところ、IL-6やIL-8などの炎症性サイトカインの発現が上昇し、p16やp21などの老化マーカーの発現も増えた。BMP4強制発現株でも同様の所見がえられ、CAFに対してBMP4を発現抑制した場合は逆の変化が確認された。また、NFに対して、BMP4強制発現株を作成し、発現遺伝子や発現タンパクを比較したところ、BMP4強制発現によりサイトカインの発現が上昇し、老化マーカーの発現や線維化マーカーの発現が増強した。逆に、CAFにBMP4のshRNAを導入し、BMP4発現抑制株を作成し比較したところ、BMP4の発現を抑制することによって、サイトカインの発現、線維化マーカーの発現、老化マーカーの発現はいずれも低下した。 以上のことから、肝臓の線維芽細胞において、BMP4はサイトカインの発現、線維化マーカーの発現、老化マーカーの発現を制御する因子の一つであり、肝癌においてはCAF化するために重要な因子であることが明らかになった。 本研究については、2018年JDDWで学会発表し、また、2019年にJournal of Gastroenterologyに論文がアクセプトされている。
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