本研究では治療抵抗性の高い膵癌における有望な治療戦略の一つであるドラッグデリバリーシステム(DDS)に関して、特に腫瘍微小環境を含めた腫瘍内分布を解析し、DDSの可変性を利用して腫瘍内分布の不均一性を改善して治療効果を向上させることを目的とする。 これまでに、古細菌由来のヒートショックプロテインから成るナノ粒子を用いた可変型DDSを使い、ガドリニウムMRI造影剤を結合させて膵癌自然発癌マウス(KPCマウス)の腫瘍微小環境を含めた体内分布を観察した。このDDSはタンパクドメインの調整により容易に粒子サイズを調整することができ、DDSのサイズによって異なる腫瘍内分布、集積率を示したことから、より効果的なDDSのサイズを見出すことができた。また、膵癌の高い治療抵抗性の原因の一つと考えられている豊富な間質組織を、一部ではDDSが貫通して到達している様子が観察され、造影剤としてのみならず、薬物を内包して治療薬としても有用である可能性が示唆された。 また、膵癌に対する薬剤送達の障壁と考えられている豊富な間質についても同時に研究を進めており、膵星細胞をはじめとした間質細胞の不活化によって間質増生を制御し得る薬剤のスクリーニングを行っている。スクリーニングでは既承認薬および未承認薬を対象とし、複数の有望な化合物を同定し、in vitroおよびin vivoでの検証を進めている。さらに、より安定的に作製可能なナノ粒子DDSキャリアの開発や、薬剤を内包したナノ粒子による治療実験を進行中である。
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