研究課題
本研究の目的は膵癌肝転移形成の重要な局面である微小転移に着目し、肝転移巣形成のメカニズムを癌間質相互作用の観点から明らかにすることである。ルシフェリン投与により膵十二指腸由来の細胞が発光する膵癌自然発癌マウスであるKPCLマウスを作成した。KPCLマウスではルシフェリン投与後に摘出した肝臓の発光を観察することで微小転移巣の検出が可能であった。また、より初期の転移巣を安定的に観察するためにマウス膵癌細胞をマウスの脾臓に注入することで人為的に肝転移を形成させる脾注肝転移モデルを作成した。このモデルでは癌細胞に予めGFPを導入することにより、摘出した肝臓を蛍光顕微鏡で観察することにより癌細胞を観察することができ、さらにGFPの免疫組織化学染色を行うことで単細胞レベルの癌細胞を含む微小転移巣を検出することができた。脾注肝転移モデルで微小転移巣を構成する細胞成分を経時的に観察すると、血球細胞は癌細胞投与後1日目から癌細胞周囲に集簇していたものの、膵癌原発巣および肝転移巣に特徴的な癌関連線維芽細胞は2日目以降にしか観察されなかった。また、4日目以降に観察されたGFP陽性の膵癌細胞は癌関連線維芽細胞が集簇した領域にしかみられなかった。マウス由来の膵癌細胞の中に、肝転移は形成するものの肺転移は形成しにくい細胞株があり、微小肝転移巣、微小肺転移巣をそれぞれ免疫組織化学染色で観察すると肝転移では癌関連線維芽細胞が著明に誘導されていたが、肺転移巣ではわずかにみられるのみであった。このことから、癌関連線維芽細胞が転移形成促進的な微小環境を形成している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
自然発癌マウスモデルおよび脾注肝転移モデルにおいて微小転移の観察に成功し、その微小転移巣を構成する細胞成分について解析を行った。その中で肝転移形成においても原発巣と同様に癌関連線維芽細胞が腫瘍促進的に作用している可能性が示唆された。
肝転移形成において癌関連線維芽細胞が促進的に作用する可能性が示唆された。今後は転移巣形成における癌細胞と癌関連線維芽細胞の相互作用のメカニズムに関して解析を行う。また、微小転移の観察で、転移形成初期から血球細胞の集簇がみられることから、血球細胞が転移巣形成に関与している可能性が高く、血球が転移形成に与える影響についても解析を行う。
研究計画はおおむね順調に進展しており、資金を有効に使用できたため。次年度は研究用試薬、器材、抗体などの消耗品、遺伝子改変マウスの作成のために使用する予定である。
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Cancer Letters
巻: 412 ページ: 143~154
10.1016/j.canlet.2017.10.010