研究課題
本研究の目的は膵癌肝転移形成の重要な局面である微小転移に着目し、肝転移巣形成のメカニズムを癌間質相互作用の観点から明らかにすることである。これまでに、膵癌自然発生マウスモデル(KPCマウス)および脾注肝転移マウスモデルを用いた研究により、肝転移形成時には癌細胞の周囲に癌関連繊維芽細胞(CAF)が集簇してきており、CAFが転移形成促進的な微小環境を形成していることが示唆された。今回さらに、肝転移マウスモデルの詳細な観察から、CAFの集簇に先立って好中球が肝臓に到達した癌細胞の周囲に集簇していることに着目し、ごく初期段階の微小肝転移巣について詳細な検討を行った。好中球には、近年発見された核内のクロマチンを放出して微生物などを捕捉するNeutrophil extracellular traps (NETs)と呼ばれる機構があり、敗血症や癌を含む様々な分野で注目されている。この機構が膵癌細胞の肝転移形成においても促進的な役割を果たしている可能性があることを見出した。また、いくつかの癌種でCD110の発現が肝転移形成において促進的に働くという報告があることから、免疫組織学的に膵癌の肝転移モデルにおいてCD110の発現を解析した。その結果、癌細胞においてCD110の発現が亢進しているものでは有意に肝転移が増加し、さらにCD110を欠失させると肝転移が有意に減少したことから、膵癌においてもCD110の発現が肝転移形成に大きく関わっている可能性が示された。これらの結果から、膵癌の微小肝転移形成に促進的に働く因子として、CAFに加えて宿主側では好中球が、癌側ではCD110の発現が、それぞれ関与していることが示唆された。
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J Cancer Res Clin Oncol
巻: 145 ページ: 1147-1164
10.1007/s00432-019-02860-z