研究課題/領域番号 |
17K16568
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
田中 智和 佐賀大学, 医学部, 助教 (60781903)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ファルネシル転換酵素阻害薬 / HIF-1α / 腹膜播種 |
研究実績の概要 |
転写因子であるHIF-1αは、癌の血管新生や浸潤・転移能、エネルギー代謝変容、さらには抗癌剤耐性など、癌の悪性形質獲得およびその増強への寄与が知られている。我々は、これまでにHIF-1αが胃癌の5-FU耐性や腹膜播種に関与すること等を報告してきた。 本研究において、種々の胃癌細胞株よりWestern blot(WB)を用いてHIF-1α高発現株を選定した後、同細胞株にファルネシル転換酵素阻害剤(FTI)を投与したところ、濃度依存的なFTIによるHIF-1α発現抑制効果が認められた。これらHIF-1α高発現株は低・未分化型胃癌由来であり、高度に腹膜播種を引き起こす胃癌であると考えられる。即ち、HIF-1α高発現は腹膜播種を来しやすい胃癌の特徴の一つであり、一方、FTIがHIF-1α発現を抑制することから、腹膜播種を来す高悪性度の胃癌にこそFTIの抗腫瘍効果が期待できることを示唆している。 次いで、実際の抗腫瘍効果を評価するため、HIF-1α高発現株および低発現細胞株を用いて、in vitroで増殖能や浸潤能、転移能をを評価したところ、HIF-1α高発現胃癌細胞株においてFTIのより強力な抗腫瘍効果が認められた。また、FTIによるSnail発現の抑制やE-cadherin発現の増加が確認され、転移能に関わる因子の発現変化にも関与していることが示唆された。 さらにHIF-1αがWarburg効果と呼ばれる癌に特徴的なエネルギー代謝に関与し、活性酸素産生制御の中心的な役割を果たすことから、FTI投与による細胞株の活性酸素の変化を評価した。その結果、HIF-1α高発現細胞株において、FTI投与によって経時的な活性酸素の増加が認められた。 以上より、FTIによる抗腫瘍効果は、HIF-1αの発現抑制のみならず、それに伴う活性酸素産生制御破綻もその一因である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vitroの実験系の遂行により、着実に実験データが積み重ねられている。また、概ね仮説に矛盾しない実験結果が得られている。これまに得られたデータに関して、第76回日本癌学会にて発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ファルネシル転換酵素阻害剤(FTI)のHIF-1α発現抑制の機序解明に取り組むとともに、FTI投与による活性酸素量の変化が胃癌細胞に与える影響を明らかにしていく。まずは、ファルネシル化蛋白の全体量をELISAで評価し、さらに高度腹膜播種胃癌におけるFTIのターゲットとなるファルネシル化蛋白の探索、同定を試みる。具体的には、Mass spectrometryによる網羅的な検索を行うとともに、これまでの報告でFTIのターゲットとして報告されている蛋白に着目して実験を進めていく。また、FTI投与と活性酸素量変化、腫瘍抑制効果との関連性についてより詳細に評価するために、エネルギー代謝の変化をSeahorse XFp (海外研究協力者である金木正夫氏に依頼) で評価する予定である。 十分なin vitroのデータを集積した後、HIF-1α高発現細胞株、低発現細胞株を用いて、皮下腫瘍モデルおよび同所性移植モデルを作成し、FTIの抗腫瘍増殖効果、抗腹膜播種効果を検証する予定である。以上について研究成果がまとまり次第、英文研究雑誌に結果を投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に実施予定であった外注実験および国際学会での発表を次年度に延期したため、これらを次年度の当初の研究計画に加える。
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