前年度研究では、HIF-1α高発現胃癌細胞株に対してFTIがより強い抗腫瘍効果を認めることを明らかにし、またFTIによる抗腫瘍効果はHIF-1αの発現抑制に加え、それに伴う活性酸素産生制御破綻もその一因である可能性が示唆された。本年度は、さらにその抗腫瘍効果機序およびHIF-1α発現抑制機序の解明に取り組み、ファルネシル化がその活性に関連するRheb蛋白に注目した。Rheb蛋白のファルネシル化は、mTORC1経路の活性化に重要な要素であるが、FTI投与によって胃癌細胞株のRheb蛋白のファルネシル化が阻害されることを明らかにした。それに伴い、mTORC1経路の下流に存在するp70S6KやS6、4EBP-1などの腫瘍増殖関連蛋白の活性化が抑制されることを確認した。さらに、HIF-1αそのものもmTORC1の下流に位置し、mTORC1の活性化によって上向き調節を受ける蛋白であるため、Rhebのファルネシル化阻害によって、結果として発現抑制を受けたものと推測された。動物実験では、HIF-1α高発現細胞株、低発現細胞株を用いて、皮下腫瘍モデルおよび同所性移植モデルを作成し、FTIの抗腫瘍増殖効果の検証を行った。興味深いことに、in vitro実験の結果と同様、HIF-1α高発現細胞株に対してFTIはより強い抗腫瘍効果(腫瘍増殖抑制効果)を認め、低発現細胞株に対してはごくわずかな抗腫瘍効果にとどまった。 以上より、HIF-1αが高発現を示すような高度悪性形質の胃癌(特に腹膜播種を効率に引き起こすような胃癌)に対してこそ、FTIの抗腫瘍効果が期待でき、新たなコンセプトの治療戦略へと発展する可能性が示唆された。さらに、FTIによるHIF-1α発現抑制機序および抗腫瘍効果機序に関してもアプローチできた。現在、研究成果をまとめ、国際学会での発表および英文研究雑誌への投稿を準備中である。
|